夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫 イ 1-7)

  • 早川書房 (2011年2月4日発売)
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‘Nocturne’を’夜想曲’と訳した人は一体全体誰なのか。探し出して共にワインを飲みたい、と、何度目の空に息を吐いただろう。
Nocturneと言えば
Chopin: Nocturne in E Flat Major, Op. 9, No. 2しか出てこない。私の1番大好きな曲、おそらくこの世界に同じだという人が何万人いるだろう。

カズオ・イシグロにどうしてこんなに惹かれるかというともちろん私の大好きな映画に起因するわけだが、全編通して言えるのは大きな波が来ないということかもしれない。ロマンチックで破滅的、耽美なドラマが起こるわけではない。ただ、この世に存在する/した誰かの日常を切り取ったような、ささやかな描写の波に揺られるのが好きなのかもしれないな。

この副題は音楽と夕暮れをめぐる五つの物語。秀逸だなと思ったのが'夕暮れ'に関してだが、この意味は単に太陽が沈みかけ空が茜色になる夕暮れではない。夜を終曲と捉え、ある老人について、ある男女関係の終わりかけについて、ある逃避行の終了間近について、を夕暮れと表している。

秀逸だな〜!日の名残りでも思ったけど、イシグロは夕暮れに特別な思いでもあるのだろうか。私はイシグロの描く夕暮れの終末について納得できず対抗したくなることもある。けれど、電車に乗って目の前で座っている全く関わりの無い、これからも関わらない人間がどういう状況にいるのか、どうでも良い些細なことに思いを巡らせるきっかけに、いつもイシグロの主人公たちがいる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月9日
読了日 : 2023年3月9日
本棚登録日 : 2022年4月26日

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