底惚れ (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店 (2021年11月19日発売)
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本棚登録 : 210
感想 : 33
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わずか2週間前に出版された本なのに、読み始めてすぐ「これ、読んだ事が有る」。
調べたら出版社の解説に「2020年に刊行された短編集『江戸染まぬ』所収の「江戸染まぬ」を長編化。」と有りました。どおりでね・・。
主人公の「俺」は、村から逃げ出し、江戸の武家屋敷で一季奉公(一年雇用の下層の奉公人)の中年男。短編「江戸染まぬ」は密かに惚れていた女・お芳に、行き違いから俺が刺されるまでが描かれます。この作品は初めの40ページは、ほぼそのまま「江戸染まぬ」を使ってバックグラウンドとし、メインは奇跡的に助かった俺が「お前は人を殺していない」と伝えるためにお芳を探す姿が「俺」の一人称で語られます。
この語りが最初はちょっと読みづらい。しかし慣れてくると適度な緊張感を持って読めるようになります。
登場人物は多くはありませんが、みんな味が有ります。俺の命を助けた医者も良いですし、女郎になったとおもわれるお芳を探す「俺」を助けてくれる女郎屋が立ち並ぶ入江町の路地番の頭・銀次、お芳の同僚だったお信の二人の造形が見事です。
私は青山さんの描くストイック(過ぎる)武家物が好きで、ちょっと柔らかくなった昨年の『江戸染まぬ』にはなんだか色んな「?」が浮かんでしまいました。これは武家物では無いですが、全編に心地良い緊張感が貫かれ良い作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史・時代
感想投稿日 : 2021年12月7日
読了日 : 2021年12月6日
本棚登録日 : 2021年12月7日

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