カブラの冬: 第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆 (レクチャー第一次世界大戦を考える)

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  • 人文書院 (2011年1月20日発売)
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第一次大戦下のドイツ人の生活を知る目的で、関連章のみを読んだ。

本書は、第一次大戦中と戦後のドイツ国民の生活苦について、当時の資料を多く紹介しながら解説しており、当時を生きた人々が残した文章から、当時の生活をなまなましく知る事ができる。

 著者の視点は政府の政策がその生活にどのような影響をあたえたか、という点と、当時の飢餓の記憶がヒトラーの独裁政治にどのような影響をあたえたかという視点だ。
 前者については、「豚殺し」という事件が一つの例にあがっていた。政府おかかえの科学者たちが豚を殺せば豚に食べられていたジャガイモを人間の食料に確保でき、より高い栄養が得られるという考えのもと、豚の大殺害が行われた。そのためタンパク源が奪われ、より人々の食卓が貧しくなったという。
 後者については、著者は、人々の間に飢餓の記憶が生々しくのこっていたため、ヒトラーがその記憶をたくみに利用して、自己の政策の実現を目指したと主張していた。これらを読んで、飢餓の記憶が強い分、ヒトラーの政策によって生活が豊かになった人々がヒトラーを歓迎したのだろうと想像できた。

 本書における、ドイツ人の生活の記述面は高く評価するが、論理構成がはっきりとしないことに不満を覚えた。特に、ドイツ人の戦時中の生活への不満が、どのように「背後からの一突き」論に代表されるユダヤ人への嫌疑や被害者意識に到ったのかの考察が不十分に感じた。戦時中の生活苦がヒトラーの独裁政治に与えた影響を考えるにあたって、ヒトラーの対ユダヤ人政策が一般の国民にどのように受容されるに到ったか、という問題を考えることは、究極状態におかれると人間がどのように行動するかという「人間の本質」をとらえるためにも意味があると考えるからである。

 末文に、本書で紹介されていた戦後すぐのある男の子の話をのせておこう。その子はやせ細り栄養失調のためお腹がふくれており、医者は彼に多くのパンを与えたが栄養状態はいっこうに改善しなかった。男の子は与えられたパンを食べることなく隠していた。彼は今ひもじくて苦しい事よりも、この先餓えるかもしれないという恐怖から、食料を溜め込んでいたのだった―。この話はとても悲しかった。飢餓の記憶とは、これほどまでに強く人々を恐怖に陥れる。この先餓えるかもしれない、という恐れから解放されたい、という当時の人々の願いが、ヒトラーの独裁体制を陰で支えたのかもしれない。
 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 第一次大戦
感想投稿日 : 2011年10月22日
読了日 : 2011年10月22日
本棚登録日 : 2011年10月22日

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