木村政彦 外伝

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  • イースト・プレス (2018年8月18日発売)
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感想 : 20
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「木村政彦外伝」というより「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか外伝」です。大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した、かの本は二段組700頁超の大著ですが、そこに収まりきれなかった内容を収めた本で、この本とセットになって「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」は富士山として屹立するとの噂で慌てて手に取りました。どんだけ書けば著者は満足するのか、いや、まだこれでも足りんだろ…と思わせる熱量です。そう、「なぜ殺さなかったのか」に書ききれなかったこと、取材したけど収録出来なかったインタビューだけではなく、出版され受賞したことで生まれた出会いや対談も含まれて、このテーマは連山化の予感がします。考えてみれば、「七帝柔道記」も「北海道タイムス物語」も違う山じゃなくて、増田俊也アルプス化です。そもそもの書名の由来が、週刊文春の猪瀬直樹の「ニュースの考現学」での木村政彦への取材からの「枯れない殺意」から来ていて、それが大宅賞の選考委員としての猪瀬直樹に繋がり、そして猪瀬・増田対談になってまた繋がっていく…木村政彦が作る連鎖が大きな連なりになっていくのに圧倒されます。菊池成功や平野啓一郎とか柔道と無関係に見える人との対談も面白く、その中で、増田俊也の前年の大宅壮一ノンフィクション賞の受賞者、今年「極夜行」で大佛次郎賞を受賞した角幡雄介との対談で気づいたのは、どんどんデジタル化していく社会の中で、彼らのストイックなまでのフィジカルに対するこだわりが必要とされているのではないか?ということ。木村政彦という特異点に執着する増田俊也の特異性は狭く深いものだけではなく大きな豊穣な分野を切り開いているのだと感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年2月5日
読了日 : 2019年2月5日
本棚登録日 : 2019年1月17日

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