超心理学――封印された超常現象の科学

著者 :
  • 紀伊國屋書店 (2012年8月29日発売)
3.33
  • (3)
  • (5)
  • (6)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 109
感想 : 17
4

現在の日本における「超心理学」の第一人者というべき
著者による、その学問分野の概説書であり、
これまでの「封印された歴史」を解き明かしていく読み物でもある。

超心理学に関しては、私も全然知識がなく、
正直いって著者の分類(p.323)についていえば、
「科学的世界観擁護者」のような立場だと自分を認識していたのだが
(海外で超心理学に懐疑的な団体の構成員がR.ドーキンスやS.ピンカーと
 いった私に影響を与えた科学者たちであることにも関係するかもしれない)、
本書を読んでみると、超心理学を誠実に希求する科学者たちが、
どれほど科学性を重んじて、データの収集や分析を丁寧に行っているかが
理解できるようになった。
そういった精緻な分析を経てもなお、現代科学では説明のつかない
「有意な」現象が存在しうるというのは、
単純な科学信奉論(ある意味では感情的コミットメントでしかない)を
良しとせずに、可能性を追求してみることこそが、真に科学的な態度なのでは、
と感じるようになった。

もちろん、なぜカードの透視や予知が成り立ちうるかの説明は、
まったくもって存在しないに等しいのだが(だからこそ超心理学なのだが)、
かつてトマス・クーンが指摘したように、
今日に至るまでの現代科学自体が、大胆な仮説による既存パラダイムの否定の
上に成立してきた、いわば非線形な発達事象であることを忘れてはならないと思う。
量子力学が確立したことで古典物理学は「古い」ものになったのだし、
その前には天動説やら燃素やらを既成事実として扱っていた歴史があるのだから。

超心理学者にも、科学的姿勢を貫けない人もいるし、
懐疑論者にも、結論ありきの感情論を振り回している人がいる。
それくらいに、超心理学という分野自体が、専門家たちの心も乱してしまう
ものなんだなぁ…と思うのである。
いわんや、マスメディアや一般市民をや。

p.289から引用されている、故カール・セーガンの懐疑論者としての、
しかしながら「誠実な科学姿勢」に満ちた言葉を、関係者は皆、心に留める
必要がありそうに思えてくる。

本書で優れた指摘の1つはp.194にある
「超心理現象は人間くさい能力発揮の産物」ということだろう。
つまり、どんな環境でも発揮できるスーパーパワーのようなものでは
まるでない、ということが蓄積された知見から見えてきている、ということで、
これは説得力がある。

徹底した科学合理論型批判者からすれば「そんな人間くさいなど科学ではない」
ということになりそうだが、
そんなことを言い出したら、ほとんどの社会科学のデータはいんちき同然になりそうだし、
人文科学に至ってはもう、ただの妄想オンパレードということになる。
(ソーカル事件で巻き起こった批判と何かリンクする感じもする)

少なくとも超心理学は、極めて自然科学的な誠実さに立脚している以上、
その筋の批判は的外れな気がする。
ただし、なぜか能力発揮は、とってもメンタル的な繊細さが要求されるのだ…。

私が思うのは、
そもそも人類は宇宙論に結論が出ていない時点で(インフレーション仮説とかも
結局はまだ仮説のままだし、超ひも理論も理論だし、膜宇宙も理論だし)
その後の産物である生物の能力についても全部を分かったなどと言い切る根拠は
どこにあるんだ、っていうかないだろう、っていうこと。

という意味では、どっちかというと超心理学派ってことになるのだろうね(笑)。

著者曰く、超心理学は風前のともしびらしいが、ぜひ消えないで続いてほしい。
超心理学がしっかり研究されることが、結局のところオカルト、変な宗教やインチキ奇跡を
排除する、ひとつの強力なツール(毒をもって毒を制す?)になると思うから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自然科学
感想投稿日 : 2013年5月6日
読了日 : 2013年5月5日
本棚登録日 : 2013年5月5日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする