深い疵 (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (2012年6月22日発売)
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感想 : 96
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著者はドイツ人女性ミステリ作家。
本書を含め、オリヴァー&ピアの警察小説シリーズを(訳者の後書きによれば)5冊発行しており、シリーズ4冊目が販売された後は「ドイツミステリの女王」と呼ばれているそうです。

また彼女のデビュー方法がちょっと変わっており、上の後書きによれば、当初、著者は自費出版した自著を身近な所で細々と販売していたのですが、販売戦略をたてて自分が経営するソーセージ店のコネを活用。
肉を配達するドライバー経由で近隣の書店に自著を置かしてもらった所、これがヒットしドイツミステリの老舗出版社ウルシュタイン社の目にとまってデビューが決定したそうです。

尚、現時点(2013年6月初旬)では上記シリーズの日本語翻訳版はシリーズ3冊めの本書の他、シリーズ4冊目の「白雪姫には死んでもらう」が出版されています。
シリーズの他の巻、特に1冊め、2冊めは未だ日本語版が出ておらず、訳者によればこれは販売戦略の一環との事で本書と「白雪姫~」がまずまずの売上を見せてからシリーズの他の既刊の翻訳版を出すとか。
商売の都合を考えれば致し方なしなのかも知れませんが、中々のあざとさを感じずにはいられません(笑)

では前置きはこの位にして、以下であらすじをご紹介。

アメリカ大統領顧問を務めたことがある男性が自宅にて射殺された姿で発見される。
殺害現場には「16145」とのメッセージが残されており、また解剖の結果、ユダヤ人と思われていた被害者の男性が実はナチス親衛隊の人間であったことが判明する。

この事実が明かになった場合の政治的衝撃を憂慮する上層部が、まるで事件の迷宮入りを狙うかのような動きを見せる中、再び男性の射殺体が発見される。
殺害現場には最初の事件同様に「16145」とのメッセージが残され、今度の被害者も元ナチスの人間であることが判明。

一連の事件が連続ナチス狩りの様相を呈し始める中、被害者たちと有力実業家一族カルテンゼー家とのつながりが見え始める。

捜査にあたるオリヴァー指揮下の捜査11課の面々。
そして、彼らの眼前にカルテンゼー一族を巡る因縁の数々が明らかになってくる。

しかし、オリヴァーの新たな上司として、彼との間に<過去>を持つ女性警視が赴任し・・・・



主人公の一人、オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインの設定は

・貴族
・既婚(妻:美人、貴族)
・ワイン通
・常に紳士的
・しかし同時にゴジップ大好きでもある

と言うもので、もう一人の主人公、ピア・キルヒホンの設定は

・バツイチ
・気立てのよい恋人有り
・自分の体型にコンプレックス

と言う、特に両者の最後の設定には読者の親近感を刺激する物があるのではないでしょうか。

ストーリーは先の見えないものとなっており、「謎解きこそミステリの命」と言う考えをお持ちの方でも、その点は満足できるのではないかと思います。
とは言え、(決してつまらなかった訳ではありませんが)アメリカ大統領顧問だった人物が元ナチスでしかもユダヤ人と結婚していたと言う設定(正直ちょっと荒唐無稽な感じが・・・)や、上記のキャラクター設定等を見て想像がつく様に、本書を一言でまとめると「大衆文学」となる感じです。

いや、ただの「大衆文学」ではなく、「ザ・大衆文学」と言った所でしょうか。
読んでいて俗っぽさが至る所で感じられるのですが、その一方で練りに練られたストーリー展開。
本書を食べ物に例えると「最高級の食材を使ってマクドナルドのハンバーガーを作りました!」的な印象です。

最高級 なのに マクドナルド

この様に不思議な感じがする小説でしたが、娯楽作品としては十二分の作品となっていますので、気軽な読書を楽しみたい時などにおすすめです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2013年6月2日
読了日 : 2013年6月2日
本棚登録日 : 2013年6月2日

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