謙信の軍配者

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年7月1日発売)
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感想 : 104
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 『軍配者シリーズ』の完結編である。すでにこの本を読み終えたマイミクさんのKさんが、「なんだか、信玄の軍配者2といった感じ」とつぶやいていたが、ぼくも同じことを感じた。
 学生時代に、新田次郎さんの『武田信玄』を読んだことがある。それにも関わらず、山本勘助のことも、川中島の戦いのことも記憶に残っていない。長尾景虎(上杉謙信)の人となりについても、全然覚えていない。

 宮本昌孝さんの『剣豪将軍義輝』では、景虎は、何より筋目を重視し、将軍家に忠勤を誓う武将として描かれていた。

 この作品でも景虎は「義」の人として描かれている。彼は毘沙門天の化身と評されるほどの戦上手でありながら、政治や経済にはとんと疎い。しかも、自分の思い通りにならないと、すぐに機嫌を損ねて、挙げ句の果てに国を捨てて出家しようとする。

 織田信長のエキセントリックな性格は有名であるが、この景虎も相当なものだ。彼に仕える家来たちの苦労も並大抵なものではなかっただろう。

 最初に書いたように、タイトルは『謙信の軍配者』でありながら、景虎・冬之助の視点よりも、信玄・勘助の視点から描かれることの方が多い。三部作全部を読み終えても、一番主従の絆が深いのは晴信・勘助で、次が氏康・小太郎。景虎・冬之助の関係が、一番絆が弱いような気がする。そもそも、足利学校で学んだ三人の中で、一番クールな考えの持ち主だと思えた冬之助が、景虎に見切りをつけないのが不思議に思えてくる。

 不正や貪欲さ憎む景虎に対して、冬之助が強く共感しているというのであれば、もう少し説得力が増すのだろうが、そうは思えないので、冬之助の立ち位置がひどく中途半端に感じられるのだ。

 一作目の『早雲の軍配者』の勢いからすると、ちょっと尻すぼみに終わった感があるが、面白いシリーズだったと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2011年10月10日
読了日 : 2011年10月2日
本棚登録日 : 2011年10月10日

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