世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ (光文社新書)

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  • 光文社 (2017年7月20日発売)
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 著者の『読書を仕事につなげる技術』を読んで、いい本だったので、続けてこの本を読んだ。まぁ。我田引水というか、経営を美意識につなげる苦労をしている感じである。「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできないという指摘はよくわかる。
 本書でいうサイエンスは、データやマーケティング調査という意味合いが多い。市場にないものを売り出すときに、市場調査をしたとしてもよくわからないということだ。
 それにしても、日本の企業の痛み加減は、半端ではない。コンプライアンス時代になりながら、売上至上主義と効率性追求によるコンプライスに抵触する企業が多いのだ。東芝の粉飾決算、三菱自動車の23年にわたるリコールの隠蔽(池井戸潤(著)『空飛ぶタイヤ』で取り上げられた横浜母子3人死傷事故。)、本書で取り上げられているDeNAの2万1000件に及ぶ著作権侵害、医薬品医療機器等法(薬機法)や医療法などに違反する可能性のコンプライアンス違反。最近では東京オリンピックをめぐって、組織委員会の元理事が、スポンサーの契約業務を請け負った紳士服の「AOKIホールディングス」、出版「KADOKAWA」、広告会社の「大広」、広告のADKホールディングスなど会社のトップが捕まっている。まだまだ、その暗闇は出てくる可能性がある。まぁ。中国の賄賂の規模とはかなり少額なのだが。本人たちは、悪いことをしたと思っていないところに、闇がある。
 真面目にやっているはずなのに、どこかで不具合おこし、それを隠蔽することが、当たり前になってしまったという日本の企業の危うさ。日本の最低賃金の低さ、賃金の低さなど、目を覆う状況だ。一部上場会社が、派遣職員や海外実習生を使ったりすることで、低賃金を維持しているのである。一部上場会社は、派遣など、ヤメレと言いたい。
 本書で強調されているのは、アート、サイエンス、クラフトの3つのバランスが経営には必要だという。今の日本の会社は、論理、理性、効率性を重視することで、スタンダードなコモディティの商品を作り、みんな同じような仕事になっている。それでは変化の激しい世界のビジネスには対応できない。以前のようにスピードとコストでは勝てなくなってきている。会社経営にアートやクリエイティブ性が欠如しているというのである。サイエンスとクラフトは、アートに勝ちやすい。経営の根拠が表しやすいからだ。そのために、アートやクリエイティビティが押さえられる。会社経営のトップが、アートに力を入れ、ワクワク感を持った経営をし、それを実行できるような布陣を引くべきだという。
現在は、VUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)という言葉に象徴される時代で、正解が出しにくい。そのために、直感、感性による「真善美」からの構想やクリエティビティに軸足を持った経営が要求される。現在強調されている「デザイン思考」をさらに押し進めた経営手法が必要だ。
 コンサルティング会社が、デザイン会社を買収したりするのも、グレイコンサルティング(経験者のこと)から、脱してアート的なコンサルティングが必要になってきている。世界が自己実現要求による消費が高まり、ビジネスが表現行為となることで、美という普遍性に共感を生み出す。
 自動車会社のマツダは、日本美を追求したクルマを作り出している。このことに意味があるのだ。
 著者は、オーム真理教は、高学歴なのに関わらず、美意識が低いということが、端的に表していると指摘する。サティアンの形状が倉庫みたいであることや掲げられている絵画などが美意識に遠すぎる。受験戦争に鍛え抜かれた高学歴者だから、オーム真理教にハマった。美意識レベルが、あまりにも低いことだった。この指摘はおもしろい。まぁ。今は東大出て、クイズ王というタレントになるというなんとも言えない貧しさ。質問があれば、答えを出すというパブロフの犬の反射神経で、受験戦争を耐え抜いてきた結果だ。考えることの大切さ、人と交わることなどの重要性など、小林秀雄と岡潔の強調していることが、理解できる。
 美意識、直感、感覚を鍛えること。それを学ぶことは、そう簡単ではない。秩序を維持するのではなく、秩序を突破することこそが、経営に必要なのだ。美意識を鍛えるために、哲学に親しみ、文学や詩を読み、写真を撮る。会社のビジョン、行動規範、経営戦略、プロダクトに美意識を判断基準に入れることだ。まぁ。この本は経営には、美意識が必要だということを多面的に考察している。意味がある本である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: しごと術
感想投稿日 : 2022年10月21日
読了日 : 2022年10月21日
本棚登録日 : 2022年10月21日

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