風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社 (2017年7月20日発売)
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本棚登録 : 1057
感想 : 72
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本格ミステリとは何か? という問いに対する僕の答えは「探偵役が真相に辿り着くまでの道筋が美しい物語」なのです。何故その真相に辿り着いたかが美しく書かれていないと満足できないのです。
その意味では青崎有吾による一連の裏染天馬シリーズは、まごうことなき本格ミステリなのです。

長編では殺人事件を相手に濃厚で緻密な謎とその解明が描かれますが、この短編集では所謂「日常の謎」を相手に軽やかに、でも推理は濃密に展開されます。
学食裏に食べ残しのどんぶりを放置したのは誰か? 夏祭りの屋台でおつりが五十円玉ばかりなのは何故か? 吹奏楽部の男子が閉め出される理由、放課後の教室から消失したふたりの少女、廊下の花瓶を割ったのは誰か? 何てことない事象を謎と仕立てて、その真相へと進んでいく展開は実に面白いです。細やかな伏線が(場合によっては大胆に)張り巡らされ、それを探偵役がひとつひとつ指摘していく爽快感。本格ミステリの醍醐味を味わえます。
あの「五十円玉二十枚の謎」の亜流が見られたのにも欣喜雀躍ですよ。

パスルゲーム的な話が多い中で「針宮理恵子のサードインパクト」は青春小説としての面も描かれています。見た目とぶっきらぼうな口調から他生徒から敬遠される女生徒は、年下の小柄な男子生徒付き合い始める。その男子がどうも部活の女子たちからパシリにされ練習場から閉め出されていると思い、どうすればいいのか悩む。
そこに潜む理由は解明されるのですが、その思い悩む姿やそこから取る行動が実に青春なのですね。このシリーズは所謂キャラクター小説の流れを汲むもので、キャラクターはかなり戯画化されているのですが、その中でこのように正統派青春小説のような展開を見せられると妙に得した気分になりますね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 在庫なし
感想投稿日 : 2019年6月13日
読了日 : 2019年6月13日
本棚登録日 : 2019年6月9日

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