ディアスポラ

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年8月4日発売)
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感想 : 20
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原子力発電所の事故によって住めなくなった日本。日本人は難民として世界各国に離散する。本書には2編の小説が収録されている。最初のディアスポラは国外へ避難した日本人の物語。もう一方の、水のゆくえは、避難せずにそのまま村に残った日本人という対照的な設定である。両方の物語に接点は無い。

先ずは、ディアスポラ。避難先を選ぶ事もできないまま、中国に受け入れられたグループはチベットの奥地に強制的に送られた。SFのような設定だが、実際には事故の詳細については全く触れられておらず、むしろ、場所がどこであっても、どんなに環境が変わっても日本人の集団に常につきまとう村社会のような性質が現れる様子が描かれている。描写が冗長で、展開が遅いので、短い小説ながらもだんだん飽きてしまった。結局クライマックスも無いまま、だらだらと後は想像にお任せします・・・とうような終わり方でスッキリしない。と思いきや、次編の水のゆくえを読んで、本編の意味が良くわかった。

一方の、酒蔵を継いだ若い蔵元、放射能によって瀕死の状態のその母、ただひたすら酒造りに身を捧げる一人の杜氏、村のダム建設の反対急先鋒だった老人、そして蔵元の幼なじみで村の公共工事を一手に引き受けていた建設会社の跡取りとその妻子だけが村に残り、そして全ての登場人物である。

皆が去り、また命を落とし、事故以前の全てが無となりながら、誰が飲む訳でもない酒造りに没頭する若い蔵元と杜氏。放射能の危険を顧みず、未完成となったダムを一人で完成させた幼なじみ。自らの存在の意義を確認するかの如く、自らの職業に没頭しながら命を削っていく人達。命の他に残ったのは使い物にもならない醜い日本人特有の社会性。本当に大切なのは何なのかということを考えさせられる小説。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2018年10月8日
読了日 : 2011年11月26日
本棚登録日 : 2018年10月8日

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