いじめのある世界に生きる君たちへ - いじめられっ子だった精神科医の贈る言葉

著者 :
  • 中央公論新社 (2016年12月7日発売)
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感想 : 46
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新聞の書評で興味を持って購入。「いじめの政治学」という論文体裁の本を、子どもにも分かるように、という主旨で書き換えられたものだそう。素晴らしい名著だと思う。難しいことを分かりやすく、というのは、何より難しいことだから。
いわさきちひろさんの挿絵が優しい気持ちにさせてくれる。

誰もが持つ心理や身体と心の仕組みが、具体的、科学的な説明と共に非常に分かりやすく、みんなに分かる例を挙げて次々と説明されていく。
ある、ある、と何度も頷いてしまった。
私も、加害者だったことがある。被害者だったことがある。たぶん、この国も。かの国も。

負のスパイラルに陥って抜け出すことができなくなってしまうその仕組み、気付かれなかったり、助けを求めることさえできなかったりする心境も、自殺を引き起こす過程も、「こういう構造で起きているのだ」と解き明かしてくれる。
解き明かすことは直接の対処療法ではないけれど、自分のいる場所や苦しさ、悲しさの理由がうっすらと掴めるだけでも、大きな救いになるはず。

著者の中井久夫さんは、アメリカの精神科医 ジュディス・ルイス・ハーマンの『心的外傷と回復』の訳をした人。阪神・淡路大震災の後、心の傷によって起きる症状を研究するための翻訳だったという。PTSDの理解を進めるうち、いじめも同じ性質をもつことに気付いたのがきっかけで生まれたのが、この本。

いじめはなくならないだろう。
でも、一人で苦しむ人を減らせたら。
何が苦しく辛いのか、自分で見通すことができたら。
具体策の羅列ではないからこそ、緒を与えてくれる一冊のような気がする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他の学術書・論文等
感想投稿日 : 2023年2月22日
読了日 : 2023年2月7日
本棚登録日 : 2023年2月21日

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