繊細な様式美を楽しめる作品。7話のノルウェー民話に、デンマーク出身の挿絵画家カイ・ニールセン(1886-1958)が25枚のカラー挿絵と無数のモノクロ挿絵を描いた絵本です。オリジナルは1914年刊行で、ニールセンの最高傑作とされています。
ニールセンの挿絵をじっくり眺めていると、作品内の解説のとおり、ニールセンを特徴付ける二大要素の一つである、線の細さと独特の緻密さは、ワイルドの小説「サロメ」の挿絵などで知られるオーブリー・ビアズリー(1872-1898、英国)に影響を受け、彼なりに咀嚼したことが、確かによくわかります。(といっても、ビアズリーにあったグロテスクさや毒々しさはニールセンにはなく、線が細く、細かい描写を厭わない点に強い影響を感じるのですが。)
そして、もう一つの要素である、平面的に様式化された魅力は、北斎や広重といった日本の浮世絵に強い影響を受けているとのこと。確かに、波の描きかたは、明らかに北斎の有名作「富嶽三十六景神奈川沖浪裏」を連想させるし、樹木の幹の屈折具合や枝のしな垂れ具合、木肌模様、そして、余白の使い方は、浮世絵の伝統表現そのものといった感じ。
日本の伝統と、イギリスきっての異端児の表現、そして、北欧らしさを融合させて、「ニールセンらしい繊細な世界観」を作り上げた意欲を感じさせます。
(とはいえ、ニールセンの画家として名を馳せた時期は短く、晩年は極貧生活だった様です。)
そして、ノルウェー民話を読むのは初めてでしたが、日本やグリム童話などとは多少違うパターン、雰囲気があるのが、興味深かったです。
多少乱暴にまとめてしまえば、美男美女が、恋に落ちるけど、悪いトロル(魔族)のおかげで困難に出会う。それでもトロルを倒した後は結婚してめでたしめでたし…が定番なパターンのようでした。
綺麗な挿絵と、よく知るおとぎ話とは少し違うものを楽しみたい時にオススメです。
- 感想投稿日 : 2018年3月2日
- 読了日 : 2018年3月2日
- 本棚登録日 : 2018年3月2日
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