釈尊の生涯とその思想をわかりやすく解説している本です。
第一章「仏教前夜」では、輪廻説や因果応報の尾原理を解説し、釈尊と同時代に沙門と呼ばれる修行者が数多く登場することになった社会的背景や、六師外道の思想が紹介されています。つづく第ニ章では、釈尊の生涯がたどられています。第三章は、釈尊を「経験論とニヒリズムに裏打ちされたプラグマティスト」として規定する著者の理解が語られます。
出家をした釈尊は当初、苦行の道に進むことをえらんだものの、それに満足することができず、やがて苦行を放棄します。著者は、さまざまな雑念を強固な意志の力で抑え込む苦行は、苦しみに耐える心を養うものであって、苦しみそのものを発現させる心的機構を解体するものではなかったと説明しています。その後釈尊は、われわれの命が永遠につづくものではないという経験的事実に立脚し、この当たり前の事実を正しく見据えることが苦しみからの解放であると考えるようになります。著者は、このような経験論とニヒリズムに裏打ちされた認識こそが釈尊の根本的な思想であったとし、大乗仏教はこのことをわすれて難解な形而上学に陥っていると指摘します。
著者はまた、「釈尊はなにを悟ったのであろうか」という問いは「奇怪な設問」だと述べています。「ブッダ」(Buddha)は、「悟る、目覚める」を意味する動詞budhの過去分詞形から来ており、budhという動詞は自動詞で目的語を取りません。それゆえ、「ブッダ」というのは「なにかを悟ったひと」や「なにかに目覚めたひと」ではなく、「なにかから目覚めた人」だと理解されなければならないと著者はいいます。このことからも、生存への執着に絡めとられ、ただ右往左往するだけを余儀なくされていた状態を脱して、われわれの生の事実をそのままに認識することが、釈尊の教えだったということができると著者は論じています。
- 感想投稿日 : 2020年4月27日
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- 本棚登録日 : 2020年4月27日
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