文明としてのイエ社会

  • 中央公論新社
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単線発達史観的な近代化理解をしりぞけ、多型史観にもとづいて西洋とは異なる日本の近代化のありようをとらえるとともに、日本の歴史を「ウジ社会」から「イエ社会」への展開という大きな枠組みのもとで論じた本です。

著者たちは、クラン社会や成層クラン社会といったいわゆる原始的な社会から出発して、さまざまな方向へと多型的に文明が展開していくという観点を提出しています。本書によれば、日本の社会は中国文明の影響のもとで古代以来の宗教的共同体が変質することを余儀なくされ、律令体制へと移行することになりました。この段階の社会のありかたを本書では「ウジ社会」と特徴づけ、やがて東国の武士たちによって形成される「イエ社会」へと取って代わられることになります。

本書の最重要概念である「イエ社会」は、「超血縁性」「系譜性」「機能的階統性」「自立性」という四つの特徴によって定義されています。そのうえで著者たちは、近代以降においても日本ではこうした「イエ社会」のありかたが引き継がれ、それによって西洋とは異なる日本的な近代化が可能になったと論じています。さらに、「新中間層」と呼ばれる日本人の登場と、そのことによる日本社会の変化についても考察をおこなっています。

梅棹忠夫の「文明の生態史観」とならぶ日本文明論の代表的著作ですが、梅棹が「生態史観」という独創的な枠組みにもとづいて上からの説明に終始している印象が強いのに対して、本書はもうすこし史実にそくした議論をおこなっているように感じられます。それだけに、著者たちの歴史理解に対して実証的な観点からの批判がなされることもあるようですが、日本史の全体像を大きな枠組みのもとでえがき出すとともに、日本の近代化の特殊的性格を説明するという、当時において重要だと考えられていた問題に対する回答を示している点で、時代を画する重要な意義をもつ著作だったといえるのではないかと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史・地域・文化
感想投稿日 : 2019年7月29日
読了日 : -
本棚登録日 : 2019年7月29日

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