ねむれ巴里 (中公文庫 か 18-9)

著者 :
  • 中央公論新社 (2005年6月25日発売)
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感想 : 26
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自伝三部作の第二弾。

妻の三千代を一足先にフランスへ旅立たせた著者は、彼女を追って船に乗り、そこで中国人の留学生たちとおなじ部屋ですごすことになります。中国の人びとの日本に対する印象は、すこしずつ悪化していた時代でしたが、著者は「同文同種」ならぬ「同糞同臭」を実感します。

パリへわたり、三千代とともに暮らすことになった著者は、上海にいたころと変わるところのない貧乏生活を送ります。二人のまわりには、やはりおなじような境遇にある日本人たちが寄り集まり、金の工面にパリの街をはいずりまわるように毎日をすごします。なかでも、画家の出島春光という男が、著者の身辺にたびたびすがたを見せるようになります。著者は、出島と、彼を第二の藤田嗣治にしようともくろむ伯爵夫人のモニチとの関係を、距離を置いてながめつつも、みずからも出島たちとおなじように金策に頭を悩ませます。また、妻の三千代とほかの男との関係に対して、どこか諦めにも似た心境になりながらも、彼女と別れるための行動を起こすこともなく、その日暮らしをつづけます。

文明都市であるパリを、どん底から見つめる著者のまなざしが、日本でも、上海でも、あるいはパリでも、変わることのない人間の普遍的な悲哀をとらえているように感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説・エッセイ
感想投稿日 : 2022年4月9日
読了日 : -
本棚登録日 : 2022年4月9日

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