「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」 一九七二 (文春文庫 つ 14-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2006年4月7日発売)
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1972年に時代の切断線を引くことができると著者は主張し、そうした観点から当時の社会や文化の動向を読み解いています。

当時の雰囲気を直接は知らなくても、古い時代の終わりを象徴する連合赤軍事件と、新しい時代のはじまりを象徴する雑誌『ぴあ』の創刊がともに1972年の出来事だと聞くと、1972年が時代の転換点だという主張に納得できるような気がしてきます。ただし本書は、そうした時代の変化を客観的に論じるのではなく、14歳にしてジャーナリスティックな鋭敏さをもっていた「坪内少年」の目から見られた時代の動きが語られているところに特色があります。文化評論としては客観性に欠けるのかもしれませんが、当時の体験をもたない読者としては、それぞれの事件や流行が身近に感じられて、おもしろく読むことができました。

1972年頃に『ぴあ』が月刊誌から隔週誌へと変わったことで、ハレとケの区別が失われ、田中角栄内閣のもとで地方の個性が失われていったと著者はいいます。そしてこれこそが、本書の冒頭で述べられている、若い世代と歴史感覚の断絶が生じた理由の一班となっているように思われます。日本中がひとつのものに熱狂する時代が終わり、人びとがもはや同時代の感覚を共有することができなくなった時代、そして、歴史の変化に普遍的な意味づけを求めることが無意味になった時代が今なのだと、おそらく著者は考えているように思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・経済・社会
感想投稿日 : 2019年5月29日
読了日 : -
本棚登録日 : 2019年5月29日

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