ワンダー・ウォール (幻冬舎文庫 さ 1-17)

著者 :
  • 幻冬舎 (2001年2月1日発売)
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本棚登録 : 232
感想 : 11
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本書のタイトルのもとになっているのはOasisの「WONDERWALL」ですが、この曲については著者のデビュー作である『イノセントワールド』でも引用されていたように記憶しています。本作も『イノセントワールド』とおなじく、性と遺伝子というモティーフがあつかわれています。

医学部に通う星河きりなは、三年前に堕胎を経験して以来、自意識が自分のもとから流れ出ていくような発作に襲われるようになります。発作が起こった彼女を鎮めることができるのは、弟のシュンヤとのセックスだけでした。ある日きりなは、自分が遺伝性の血友病に犯されていることを知ります。血が流れ出て凝固しない、彼女の発作のメタファーのようなその病気は、本書のなかで、彼女の意識と彼女の存在をつなぐ遺伝子とをクロス・オーヴァーさせる役割を担っています。

きりなは助教授のオダギリのもとで、実験データをコンピュータに入力するスタッフとして働くことになります。彼女とともにこの仕事をおこなうのは、超俗的な雰囲気をまといつかせており、きりなたちから「Prof」というあだ名で呼ばれている萩原航という男でした。きりなと航は交流を深めていきますが、しだいに二人は、オダギリが堕胎児を実験に使っていたのではないかという疑惑に突き当たることになります。

やがて航は、オダギリの実験に、三年前にきりなが堕胎した子どもが使われていたことを突き止めます。このことを知ったことで、きりなはしだいに、みずからの家族の裏面史ともいうべき事実に気づきます。それでも彼女は、航に支えられながら、シュンヤとの関係を清算し、オダギリの犯罪にも決着をつけようとします。

メッセージ性が強く押し出されている作品ですが、そのぶんストーリーに若干のぎこちなさを感じました。ただ個人的には、こうしたモティーフの明瞭な作品はけっしてきらいではありません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説・エッセイ
感想投稿日 : 2018年9月22日
読了日 : -
本棚登録日 : 2018年9月22日

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