ヴェニスの商人の資本論 (ちくま学芸文庫 い 1-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (1992年6月26日発売)
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感想 : 45
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著者のエッセイや書評、『不均衡動学』の解説や補足をおこなった論考などが収録されています。

冒頭のエッセイ「ヴェニスの商人の資本論」は、著者の妻である水村美苗からアイディアを示された執筆に至ったとのこと。シェイクスピアの『ヴェニスの商人』におけるアントーニオとシャイロックを、共同体の論理と資本の論理の体現者として読み解き、さらにこのストーリーを展開させる「トリックスター」としてのポーシャを、「貨幣の謎」を体現する人物として解釈しています。

「遅れてきたマルクス」という論考は、シュンペーターがワルラスの一般均衡体系からどのように離脱を図ったのかを明らかにするとともに、マルクス主義経済学の観点からその意義について考察をおこなっています。シュンペーターの仕事は、新古典派の文脈の中で、マルクスの「特別剰余価値」に関する議論に相当する思索を展開したものと考えることができます。そして著者は、シュンペーターの企業家たちが技術革新競争を通じて「未来」を作り続けているという解釈を示し、マルクス経済学的な時間論へのつながりを示唆しています。

才気煥発な著者の思考が軽やかなスタイルで展開されており、やや難しいところもありましたが、おもしろく読みました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・経済・社会
感想投稿日 : 2016年3月10日
読了日 : -
本棚登録日 : 2016年3月10日

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