20世紀の思想や芸術の中に、「人間性」と「非人間性」との境界線のぶれが生じていることを見つめる試みと言えるように思います。
20世紀中に起こった2つの大戦、そしてホロコーストや原爆の悲劇は、啓蒙によって自然からの離脱をめざした近代的な人間理性の中に、非人間的なものが入り込んでいることを示しました。一方芸術の分野では、理性の支配に対する反旗が翻され、さまざまな前衛芸術運動が起こりました。さらに20世紀後半から21世紀にかけて、メディアの発展や大衆社会現象の広がりは、啓蒙的な理性の支配を追及する人間の営みが、メディア的環境のような新しい自然の中へと人間が溶解していく状況を招来しつつあることを示しているように思えます。
本書で著者は、岡本太郎の「太陽の塔」の解釈に力を注いでいます。自分なりに著者の解釈をまとめてみると、太陽の当の切断された首に「無頭人」の契機を、首から流れる赤い血と塔の中央下部にある胎児の顔に「繁殖性」の契機を読み取るというものに思われます。そしてここにも著者は、「人間性」と「非人間性」の緊張を孕んだ混淆を認めています。
扱われている主題が大きいためか、やや議論が拡散してしまっているように見受けられます。ただし、著者の提起している問題の重要性は納得のできるものでした。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
哲学・思想
- 感想投稿日 : 2015年5月9日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2015年5月9日
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