古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫 (406‐1)) (創元推理文庫 406-1)

著者 :
  • 東京創元社 (1991年7月20日発売)
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神保町の古書店「書肆・蔵書一代」主人である須藤康平のもとに持ち込まれる事件をえがいたミステリ作品です。「殺意の収集」「書鬼」「無用の人」の中編3編と、長編「夜の蔵書家」を収録しています。

「殺意の収集」は、津村恵三が図書館に寄託した幻の稀覯書『ワットオの薄暮』が図書館から盗まれた事件を追う話。「書鬼」は、戦前に出版されたシートンの『動物記』をさがしてほしいという風光明美の依頼を受けて調査を進めるうちに、古書店主たちのあいだで「ステッキの爺い」として有名な愛書家の矢口彰人と、須藤の店に現われる北見圭司との複雑な関係に巻き込まれていく話。「無用の人」は、和本の芯紙に成島柳北の『柳橋新誌』第三編が用いられているという尾崎朋信の依頼を受けて、「幻の本」が存在するという夢に須藤が振り回される話。「夜の蔵書家」は、戦後まもない頃に地下出版に携わりその後失踪してしまった森田一郎という人物をさがす話。

「古本屋探偵」というと、ビブリア古書堂の栞子さんを思い出す読者もすくなくないと思いますが、こちらの著者は当代有数の愛書家として知られる紀田順一郎で、「限りなく現実に近い創作」という「書痴」たちの生態が見られるのが、本書の一番の読みどころであるように思います。デパートの古書即売展の様子は聞きおよんでいたものの、大雪の日に古本屋に出かけて、郵便受けに入っていた注文書と思しき速達の封筒を川に投げ捨てたというエピソードには驚かされます。

そんな愛書家たちを相手にする古書店主も、一筋縄ではいかない濃いキャラクターばかりです。とくに「新聞を死亡欄から読むのが古本屋、本の広告から見るのが、シロトの愛書家」という小高根閑一の台詞がふるっています。もっとも、登場人物がそんなむさ苦しい男たちばかりというのはさすがに気が引けたのか、アルバイトで須藤の助手を務める短大生・小高根俚奈が一片の華やかさを添えてはいるものの、この方面の期待をするのはお門違いでしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説・エッセイ
感想投稿日 : 2019年11月26日
読了日 : -
本棚登録日 : 2019年11月26日

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