著者が雑誌『海燕』で担当していた文芸時評をまとめた本です。
とりあげている対象は、文学作品のみならず少女マンガや『ドラゴンクエストⅢ』にまでおよんでおり、文体にもさまざまな試みがなされていて、全編にわたって興味深く読みました。
とはいえ、著者の関心の向かうベクトルは、あまり拡散することなく、むしろ一つの方向へと収斂しているように思います。たとえば、尾辻克彦と赤瀬川原平の関係について論じ、鈴木志郎康の刊行している文芸雑誌を通して文学における「読者」とはなにかという問いを差し向けるなど、「文学」という制度に対する批評的なまなざしが随所にみられるように感じました。
それは、ドラクエについて論じているときにも変わらず、著者は『ドラゴンクエストⅢ』が「物語」を要求してしまうことの是非を問うというしかたで、蓮實重彦が『物語批判序説』であつかっていたテーマにアプローチしているといえるように思います。
著者の問いかけようとしていることは理解できないでもないのですが、FC版『ドラゴンクエストⅡ』で挫折を経験したプレイヤーとしては、あのゲームの「理不尽さ」は、そうした「問題」のうちに回収されることを拒んでいる、などといってみたくもなります。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
文学研究・批評
- 感想投稿日 : 2019年5月9日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2019年5月9日
みんなの感想をみる