スウィングしなけりゃ意味がない (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2019年5月24日発売)
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感想 : 26
5

戦時下の青春小説。

日に日に締め付けが厳しくなっていく戦時下、敵性音楽であるジャズをどうにかして聴き続けること。この話を貫いているものは反戦の精神でもなく戦争がもたらす教訓的なものでもなく、ジャズという名の人間性ではないかと思う。

主人公エディがつるんだり巻き込んだり丸め込んだりする人達は、ユダヤ系、ユーゲントのスパイ、戦争捕虜、ゲシュタポなど立場を問わない。
エディにはイデオロギーはなく、ジャズを聴き続けるため、前線行きを逃れるためにあらゆるものを利用し、あらゆる理不尽に心を痛める。

ジャズを含むアーリア的でないもの全てを根絶やしにしようとイロニーのかけらもなく愛国精神を説くナチス。

馬鹿げた戦争をやりたいやつはよそでやってくれ、俺たちを巻き込むなという心の叫びは、国籍や年代問わず誰もが共感できるところではなかろうか。
そういった率直な人間性が、恋や人生の楽しみを歌うジャズナンバーに投影される。

佐藤亜紀作品の中では読みやすいほうではないか。(天使、雲雀などは登場人物も殺人的に多くて苦労した)とはいえこの作品も分からん単語が当然のように出てきてググりながら読まないと厳しい。
単語検索もそうなんだけどスマホ片手に読むのがおすすめ。ジャズナンバーが随所に出てくるので検索して聴く。ヒトラーユーゲントの歌も。
作中繰り返し出てくる「イロニー」の有無を、音楽を通じても感じることができると思う。

今回もほんとに登場人物が魅力的。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年5月24日
読了日 : 2021年5月23日
本棚登録日 : 2021年5月12日

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