怒りについて 他二篇 (岩波文庫 青 607-2)

  • 岩波書店 (2008年12月16日発売)
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-摂理について-
世界が摂理によって導かれているのに、良き人々に数多の悪が生じるのはなぜか。
神は善き人にこそ試練を与える。まるで厳父のように。
古代哲学の運命論ゆえ、なるほどとはならないが、困難な状況を乗り越えることを称揚してくれる。


-賢者の恒心について-
ストア派の考える賢者が持ち合わせている大度について扱う。
不正とは悪をおよぼすこと、すなわち卑劣な心を呼び起こすことと定義される。賢者は徳で満たされているため、悪が入り込む隙がない。従って賢者に不正を与えることは不可能である。
賢者は徳以外に何も所有していないことを理解している。従って苛烈な目に遭わされても、運命が何かを奪うとは考えない。例として挙げられるスティルポーンのエピソードは強烈。
賢者は侮辱に関しては気にも留めない。赤ん坊が親の髪を引っ張る程度のことと考えている。

こうなれたら最強だよなーと思う。
読んでいる間、ちょっとしたことに心揺れる自分を思い起こし、その愚者っぷりを痛烈に感じる。


-怒りについて-

怒りとは、
・不正に対して復讐することへの欲望
・自分が不正に害されたとみなす相手を罰することへの欲望
・害を加えたか、害を加えようと欲した者を害することへの心の激動である。
怒りについては学派によって扱いが分かれる。
アリストテレスは戦闘において必要と論じるが、セネカは否定する。いかなる場合でも怒りが有用にはなり得ないと論じる。
また、怒りは制御するのではなく除去してしまうのが良いとする。一度怒りに居場所を与えたら、増大するチャンスを与えることになる。
怒りはそれ自身で発するものでなく、こころが賛同してから生じる。つまり情念や反射のようにコントロール外のものではないとする。
怒りをなくす方法として、罪のない者は一人としていない、と思うことが重要。自分は何も間違っていないという思い込みがを捨てることが必要。
われわれは他人の悪徳に目をとめるが、己の悪徳を背に負っている。
そして怒りに対する最良の対処法は遅延である。

この本を読んでいた期間は、怒らないように自分を気遣えていた。読み終えた今も自分を気遣えるようにしていきたい。怒ってしまっているとき、この本の表紙を目にすれば怒りが抑えられる気がする。それくらい納得させられる内容だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年12月1日
読了日 : 2022年12月1日
本棚登録日 : 2022年11月23日

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