介護入門

  • 文藝春秋 (2004年8月26日発売)
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本棚登録 : 529
感想 : 129
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熱かったなあ。勢いがすごい。最初は読みにくくて内容が頭に入ってこなかったけれど、入り込めれば自分の心までもが熱くなるような小説だった。
しかし、一旦読むのをやめると、また入り込むのに時間がかかる。新しい体験ではあったが、あまり好みではなかった。
著者独特のラップ調のような、饒舌な語りがあってこそ、この「自宅介護」のリアルがよりリアルに感じられるし、そこに新しさと面白さがあるのだと思う。

介護には、介護者と被介護者だけの空間があり、お互いを介して様々な葛藤が生まれる。介護をしていく中で、著者の心の中で渦巻く感情がとてもリアルだった。自分の中の「介護」というものに対する考えが、実際にそれを経験している人に比べてこんなにも深さが違うのかと衝撃だった。

介護は辛い、そんな陳腐な言葉では言い表せない。
介護をしていた時間が結果的に何ヶ月、何年、何十年だろうと、それを今現在此処でしているその人にとっては、それが出口のない永遠であるという絶望。自分は睡眠時間を削ってまでこんなにも必死に介護をしているのに、自分より濃い血を分けている親戚はただの傍観者であるということへの憤り。
しかし、だからといって、もし親戚が祖母の介護を引き受けると言ったところで、著者はそれを許しはしないだろう。それだけの使命感と、祖母を介護できるのは自分だという強い意志を著者はもっている。

親戚が偶然祖母の涙に遭遇したとき、まるで自分だけが祖母の素の顔、本心を知ったかのようなそぶりで著者に話す。それを聞き、酔いしれながら同情しているかのように涙を流す親戚を目の当たりにしたとき、果たして著者はどんな思いであっただろう。

介護者と被介護者には、その人たちだけに流れる特別な時間が存在し、その特別な時間が積み重なり、その重なったいくつもの日々があってこその特別な絶望と特別な幸福感を持ち合わせながら生きている。
そして、著者はそこに介入してくる何かには鋭い視線を向ける。それだけ著者は介護者として、介護者本人にしか分からない特別な感情を背負いながら生きていることを知る。

この小説を読んで、介護というのは、その背景に被介護者に対する至上の愛がなければ本当の介護は成立しないのだと痛感した。

しかし、それと同時に、終盤に近づくにつれて、祖母の介護に対する一種の依存のようなものを感じた。

「この家にいて祖母に向き合う時にだけ、辛うじてこの世に存在しているみたいだ。知らず知らずのうちに、ばあちゃんの世話だけを己の杖にして、そこにしがみつくことで生きていた。それ以外の時間、俺は疲弊した俺の抜け殻を持て余して死んでいる」

自分の時間のほとんどを介護にあてる、その過程で、それが自分の使命だと思わなければやっていけなかったのか、それは分からないが、祖母がいて、その祖母を介護するということこそが自分の生きる意味であり、誇りであり、使命である、それを失ったら、自分の生をも失うのと同義だという感覚であったのかもしれない。愛する祖母がこの世からいなくなってしまう絶望は当然のことながら、それと同時に自分の生きる意味自体がなくなってしまう絶望までもが感じられ、そこにとても心が痛くなった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年2月15日
読了日 : 2022年2月15日
本棚登録日 : 2022年2月15日

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