和歌の名手・六条の御息所から「ボキャ貧」・末摘花まで、また、拙いながらも相手を思いやり寄り添う阿闍梨から口先だけで相手を不安にさせる匂宮まで、和歌という「心の結晶」が当時の人々にどのように息づいていたか、和歌が『源氏物語』の登場人物たちを生きた人間として浮かび上がらせ、どれだけ壮大な物語を彩ってきたか、私にとっては、歌人としての著者の分析が『源氏物語』をより魅力的な物語へと押し上げてくれたように感じる。
なかでも女三の宮の「煙くらべ」の和歌に対する分析は、すばらしいと思った。幼さを強調されていた女三の宮がここぞというところで秀逸な和歌を詠んだことについて、「それほど、女三の宮は、良く悩んだのだろうな、と思う。」という言葉が、俵万智さんほどの歌人から出るということは、やはり、そうなんだろうな、と思う。場面によくあっていて技巧を凝らした和歌は当然に美しいものではあるけれども、それは、詠んだ人物の心が伴っているからであって、テクニックがあるからというだけで美しいものにはなり得ない。女三の宮が生み出した「心の結晶」たる和歌に、彼女の苦悶などあらゆる表情が読み取れてきて、『源氏物語』という作品がより立体的に見えた。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2024年1月26日
- 読了日 : 2024年1月26日
- 本棚登録日 : 2024年1月26日
みんなの感想をみる