カラヤンがクラシックを殺した (光文社新書 380)

著者 :
  • 光文社 (2008年11月14日発売)
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感想 : 17
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 『クレー──越境する天使』のなかで、本書のことが触れられ、その内容に対する中傷によって、著者は相当に消耗したと書いてあった。カラヤン的なものが、その流線型への化粧が覆い隠してしまった、音楽が本来深く肯定すべき、苦悩に満ちた、死と隣り合わせの生の本質に迫る表現を、クレンペラーとケーゲルの仮借のない音楽に見て取る著者の議論が、なぜそれほどの攻撃の対象にならなければならないのか。そこには一部の歴史修正主義とも共通する、慰撫された状態を逆撫でされることへの過剰な反撥があるのかもしれないが、そうしてまで寄りすがろうとするものが虚無でしかないことを、まずは直視するべきだろう。ただ、そのことを暴き出す著者の議論は、読んでいて痛々しい。やむにやまれず書いたことがひしひしと伝わるが、もう少し、それこそクレンペラー的に論理を積み重ねても良かったのではないか。編集者に恵まれなかったようにも見える。すでに鬼籍に入った著者とは、一度音楽や絵画のことを語り合ってみたかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 音楽
感想投稿日 : 2011年6月20日
読了日 : 2011年6月20日
本棚登録日 : 2011年6月20日

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