玉藻の前 (中公文庫 (お78-8))

著者 :
  • 中央公論新社 (2019年5月23日発売)
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感想 : 7
5

一目見て、これが面白くないわけないと確信して購入。中公文庫の岡本綺堂、カバーの質感と装画がすごく好き。するする読める巧みな語り、怪奇趣味に山本タカト。大成功だと思う。
『BEAST OF EAST』の影響もあって、脳内イメージは山本タカトと本文挿絵の井川新涯と山田章博が乱舞。贅沢すぎる。
読物集は全7巻完結。欠けてる巻もそろえたい。

岡本綺堂の手になる玉藻の前伝説。江戸時代の読本『絵本三国妖婦伝』を下敷きに、玉藻の前の前身・藻の幼馴染だという青年を投入して描く妖異と恋の物語。
大部分はすでになんとなく知っている玉藻の前伝説の通り。そこに藻と近しい人物を加えるだけで、こんなにも語りが厚くなるのかと、まず嬉しい驚きがある。病身の父と暮らす彼女を案じていて、将来は一緒に……なんて淡い気持ちを互いになんとなく了解していると思っている。それが離別と玉藻の前の出現や再会を通して、疑心に揺らぎながら通奏低音みたいに物語全体を貫いていくのだからたまらなかった。思い切らなければいけないのにそうできない千枝松の姿に、ああこれは、と思って、その終着には納得するばかり。これは妖異と恋の物語。
国を魔道に堕とす望みのために彼を振り捨てながら、再会後はやさしく湿っぽい態度をとる玉藻の前がまたすごかった。しかもだんだん執心もあらわになっていく。邪悪な狐がとってかわっているのに、その前身は藻であるからして、こちらも恋には違いないんだなと思うしかない。悪女なのに一途とは……。

玉藻の前でありつつ鳥羽院のところまで到達しないのは、ひとえにこの千枝松がいるという都合なのかも。
さすがに宮仕えとなったら、このふたりが接触できなくなりそうだから?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年9月23日
読了日 : 2019年9月23日
本棚登録日 : 2019年9月23日

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