戦略読書日記 〈本質を抉りだす思考のセンス〉

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  • プレジデント社 (2013年7月11日発売)
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感想 : 87
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・誰でもいいので、まずは自分の周囲のひとでセンスがよさそうな人をよく見る。そして見破る。「見破る」というのは、その背後にある論理をつかむということだ。
→著者曰く、経営は「女にもてる」と同じようなセンスであり、それぞれの方法は個性的なものであって、資格のように学んで取得できるものではない。
多数の著書からその個性と論理を抽出していて、とても面白い。

―元祖テレビ屋大奮戦! 井原高忠
・ここにも彼の戦略家としてのスタンスがみてとれる。「自分が丸ごと全部を動かせるという感覚が戦略を構想するリーダーには不可欠だ。戦略家は常に「全体」の「綜合」をする人でなければならない。

・早くスタジオに入れと言われたタレントが、入ってみたら10分もぼーっと待たされているような状況がしばしばある。「今VTRの頭出しが流れています」とか、「あと何分です」という情報がリアルタイムでわかれば、そこにいる全員が自分がなにをすべきか分かる。小道具が、次に草履を揃えなきゃとか、刀を二本用意しとかなきゃ、といった具合に、それぞれの持ち場で判断して自律的に動ける。
戦略ストーリーとは全体の「動き」「流れ」についての構想である。分業は仕方ないにしても、戦略の実行局面では「分業しているけれども分断されていない状態」を保つ。ここにリーダーの本領がある。サブ・コンからトークバックを全開にして全員に指示を飛ばすというスタイルにはまことに味がある。理想的なリーダーの構えだ。

―一勝九敗 柳井正
・話が具体的な案件になると、具体のレベルで思考がひたすら横滑りする人が多いものだが、柳井さんにはそうしたことがない。どんなに具体的な問題であっても、柳井さんは必ず原理原則の抽象レベルにまで問題を引き上げ、ことの本質を突き詰める。そのうえでもう一度具体的な問題に降りてきて、意見や判断を述べる。急降下爆撃だ。
柳井さんの思考は目の前で起こっている具体的な物事と抽象的な原理原則の体系と常時いったりきたりしている。この具体と抽象の振幅の幅がとんでもなく大きい。振幅の頻度が高く、脳内往復のスピードがきわめて速い。
戦略ストーリーを構築する経営者の能力は、どれだけ大きな幅で、どれだけ高頻度で、どれだけ早いスピードで具体と抽象を行き来できるかで決まる。

・柳井さんの議論のスタイルを観察していると、口癖のように「当然ですけど」という言葉が頻発する。たとえば「われわれの商売は売場でお客様に商品を買ってもらわなければ何も始まらない。だから、つくることよりも売ることのほうが何倍も大切になる。当然ですけど」という調子である。場合によってはその後に「当たり前ですけど」と続いて念押しする。「商売は売場で完結しなければならない。あらゆる仕事が最高の売り場をつくるということに直結していなければならない。当然ですけど。当たり前ですけど」。
→一勝九敗は有名な著なのでどうかと思ったら、著者が柳井さんと一緒に仕事をした実例から切り取られていて新たな発見が多かった。特にその「23条の経営理念」はとても当たり前のことなのだが、「わかる人には万能薬、わからない人にはただの水」で、例えば第一条は「顧客の要望に応え、顧客を創造する経営」なのだが、柳井さんはこれについて何時間でも「つまりこういうことである」という具体論を話すことができるそうだ。

―『バカな』と『なるほど』 吉原英樹
・いつぞやも僕の仕事場にわざわざいらして、唐突に「キミはこういうところがダメだ。このまま行くとダメになる」と割と本質的な批判をして、すーっと帰ってしまった。

・馬車を何台つなげても、蒸気機関車にならない。―シュンペーター

―スパークする思考 内田和成
・内田さん自身は、常に20くらいの引き出しを持っているのだという。引き出しにはそれぞれのテーマがあり、テーマはときどき入れ替わる。20ある「脳内引き出し」にはそれぞれ見出しがついている。これが内田さんの「注意」のフィルターになっている。このフィルターをもって情報のなかに身をおいていると、引っかかる情報は自然と引っかかって引き出しに仕分けされる。引っかからない情報はさしあたって自分には意味のない情報だからどうでもいい。無視するに限る。

―最終戦争論 石原莞爾
・石原という人が面白いのは、何かを考えるときに、必ずそれが「何ではないか」を考えているということだ。

・もしも石原莞爾が失脚せず、戦争指導していたらどうなったのか。石原を失脚させた東条英機は、石原よりはるかに格下であり、「担当者」の器量しかない人物だった。冷徹なリアリズムと歴史から抽出された骨太のロジックを併せ持った石原であれば、あのタイミングでは開戦しなかっただろう。開戦を余儀なくされても、機をとらえてすぐに引いただろう。いずれにしても、多くの人が言っているように、東条が石原だったら、歴史は大きく変わっていたはずである。
ただし、それで彼の戦略ストーリーどおりに事が運び、予測したとおりに1970年ぐらいに世界最終戦争が起きていたら、それはそれで最悪ではある。

―『日本の経営』を創る 三枝匡
・経営人材は「育てられない」。だから「育つ」土壌を耕す。

―Hot Pepper ミラクルストーリー 平尾勇司
・ホットペッパーの本質は「特定の狭い地域に限定された消費情報を、今までにない形で流通させ、その地域の消費を喚起する」ことにあると定義された。ひいては「地元の消費を活性化し、地域を元気にする」。これがホットペッパーの目的となった。言葉としては素っ気ないが、「狭域情報ビジネス」は大義をとらえた志の高いコンセプトであった。
面白いことに、このコンセプトはそれまでのリクルートの「勝利の方程式」のことごとく逆をいくものだった。

・「綜合」というとすぐに「シナジー」とか「組み合わせ」という言葉が出てきがちだ。しかし、ストーリーという戦略思考の真髄は、組み合わせよりも「順列」にある。物事の時間的な順番に焦点を合わせるからこそ、因果論理が明確になり、戦略に「動き」が出てくる。「流れ」を持ったストーリーになる。

・僕がもっとも感銘を受けたのは、平尾さんが構想したストーリーがその実行にかかわる人々の気持ちに火をつけ、人々を実行に向けて自然とやる気にさせるものになっているということだ。

―映画はやくざなり 笠原和夫
・データを頭に叩き込むと、「コンセプト」と「テーマ」が一層リアリティを帯び、深みを増してくる。しかし、だからといって、調査や資料の読み込みがコンセプトづくりに先行してはならない。先にあるべきはあくまでも本質を荒括りにするコンセプトとテーマでなくてはならない。
僕が尊敬する経営者の一人に日本マクドナルドの原田泳幸さんがいる。原田さんがよく言う言葉に「リサーチから始まる戦略はモノにならない」というのがある。

・笠原は、「起・承・転・結」のそれぞれの区分のなかで、山場を「序・破・急」のリズムで刻んでいくことを心がけていた。

・この本の最後で「だからといって、骨法などに捉われて、自分の『切実なもの』を衰弱させてはならない」と笠原はクギを刺している。いちばん大切なのは「体の内側から盛り上がってくる熱気と、そして心の奥底に沈んでいる黒い錘りである」。

―市場と企業組織 O・E・ウィリアムソン
・経済取引のガバナンスには二つのメカニズムがある。一つが「市場」、もう一つが「組織」だ。だからタイトルが『市場と企業組織』になっている。市場の反対は組織で、組織の反対が市場だというのがウィリアムソンの考え方だ。

・「満足を呼び起こすような交換関係」といった「雰囲気」は、市場メカニズムでは十分に扱えない。「1リットルいくらで買います」といった具合に血液を必要なときに必要なだけ市場から吸い上げるシステムは理にかなっていないのである。
こうした「雰囲気」にまつわる議論は、本書の中では付随的にしかなされていない。しかし、ここでウィリアムソンがぼんやりとモデルの中に入れている「雰囲気」こそが、僕はこれからの組織のよりどころではないかと考えている。
…ようするに、「濃い組織でなければ、組織として存在する意味がない」というのが僕の仮説だ。なぜ市場がパワーを持つこの時代に「会社」をやっているのか。この問いに明確に答えられる組織でなければ市場メカニズムに侵食されて、会社としての存在理由を失ってしまう。

・初対面で人を判断できないのは底の浅い人間だけである。―オスカー・ワイルド

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経営 ☆4,5
感想投稿日 : 2014年2月6日
読了日 : 2014年2月6日
本棚登録日 : 2014年2月6日

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