前著『 [新装版]国難の正体 ‾世界最終戦争へのカウントダウン 』と章立てを若干変えて、コンパクトな体裁にはなっているが、内容的にはかなりの重複があり新しい情報は少ない。現在の世界史的な課題をグローバリストとナショナリストの対立軸で捉え、前者の代表選手として米中、後者に共産主義という別種のグローバリズムを脱したロシアを見立て、日本の進むべき道として後者を選択すべしというのが骨子である。タイトルは日本と中韓を分断することで日本封じ込めを画策するアメリカの戦略を指すが、これも前著で既に主張されていたことである。
前著のレビューにも書いた通り、評者は馬淵氏を気骨ある外交官だと思っており、その主張には共感するところが多い。ただし中央銀行については根本的な誤解があると言わざるを得ない。それは札付きの反ユダヤ主義者ユースタス・マリンズの『民間が所有する中央銀行』に全面的に依拠したことによるもので、その誤りは本書においても反復されている。氏のグローバリズム批判は概ね正当であるが、マリンズのような陰謀論を持ち出さずとも十分論証可能であるだけに残念である。これは氏の主張の根幹である国際金融資本の支配力に関わるもので、氏のクレデビリティにとって致命傷になりかねないことを危惧する。
詳しくは前著のレビューに書いたので繰り返さないが、国際金融資本の権力の源泉は、ニクソン・ショック以降のドル為替本位制であり、アメリカの中央銀行がユダヤ資本の所有する「民間銀行」であることではない。各国とも中央銀行のガバナンスは普通の会社と違って法的な縛りが張り巡らされており、株主の影響力は極めて限定的である。古来より国際金融資本は国家への貸付により莫大な富を蓄積してきたことは確かだ。しかしその国家が借金まみれになり、挙げ句の果てに不換紙幣を乱発しては貸手の彼らとて元も子もない。通貨発行権を通常の国家の意思決定プロセスから独立させたのは基本的にはそれを防ぐためだ。そのこと自体彼らの利益にかなったことではあるが、国家経済的見地からも至極もっともなことだ。
問題は基軸通貨国アメリカには通貨価値を安定させるインセンティブが働かないことだ。とりわけ金という錨を失い、ドルを刷ればいくらでも海外の富を収奪できるという構図があればなおさらである。国際金融資本はその法外な特権を享受するアメリカという国家、というより「帝国」に寄生する存在である。その意味でグローバリストは反国家的ではあっても反帝国的ではない。
- 感想投稿日 : 2023年12月29日
- 読了日 : 2015年2月14日
- 本棚登録日 : 2023年12月29日
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