思い出袋 (岩波新書) (岩波新書 新赤版 1234)

著者 :
  • 岩波書店 (2010年3月20日発売)
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感想 : 53
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 著者の本はお初。哲学者、思想家とのこと。
 御齢80を超え、自身の戦中戦後の過去を通じて、知り得た知識や思索を重ねてきた思いなどを、自由闊達に語り尽くす。「一月一話」という連載ということは、月に1話、年間12話。それを7年間にわたり綴った、ある意味「知」の結晶だ。
 2015年に亡くなられているので、最晩年の著者の、遺志に近いものだろう。

「少しずつもとの軍国に近づいている今、時代にあらがって、ゆっくり歩くこと、ゆっくり食べることが、現代批判を確実に準備する。」

「ところが歴史のない国、正確には先住民の歴史の抹殺の上につくられた開拓民の国アメリカでは、「金儲けの楽しさ」は妨げるものをもたずに展開していくことになる。」

 2010年の著作、連載時期はさらにその前ではあるが、まさに現代に対する警鐘のような言葉が綴られていることに驚く。

 〈もうろく貼〉という備忘を付けているという話も興味深い。からだの衰え、忘却のかなたへ消えゆく記憶と、いかに折り合いをつけて老いてゆくかの感慨も綴られる。

 教育への不安と期待は、後世に送る切なる思いであろうとも思う。

「大学とは、私の定義によれば、個人を時代のレヴェルになめす働きを担う機関である。」

 と、横並びの、金太郎飴しか作らない日本の教育への懸念はそうとうなもの。

「もし大学まで進むとして、十八年、自分で問題をつくることなく過ぎると、問題とは与えられるもの、その答えは先生が知っているもの、という習慣が日本の知識人の性格となる。今は先生は米国。」

 青年期に米国留学もした著者ではあるが、今のアメリカの存在にも、要注意と語りかける。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2024年1月29日
読了日 : 2024年1月27日
本棚登録日 : 2024年1月27日

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