とあるひとつの日常的な風景を99通りの文体で書き表してみました、といった内容の本。
文体、とはいってもアナリズムやリポリズム、自由詩、短歌、子音交換や複式記述(「頭痛が痛い」的な表現)、さらには確率論や幾何学を利用したものなど、「文体」とは言えない手法も混ざってはいる。
読んでいてまず感じるのは、「これ、本当に翻訳が大変だったろうなぁ」ということ。
あとがきを読むと「問題はひとつひとつのことばの意味ではなく、全体としての変換のルール」なのであり「翻訳の作業はほとんどゲームの様相を帯びてくる」つまり「ゲームのルールは原文に指定されており、そのルールを使ってどれだけ『日本語』で遊ぶことが出来るか」が大切であり、章によっては「元のルールを日本語に合うように修正したローカル・ルールによるもの」とのこと。
ここだけ抜き出してもわかりにくいかと思うが、実際に本書を読んでみると、実に的を射た表現だな、と思わせてくれる。
中には「これ、翻訳じゃなくて創作だよね」という章もある。
イギリス人がなまりの強いフランス語をしゃべっている、なんて文章を日本語に翻訳する、なんてことはどだい無理な話である。
それを、苦し紛れな手法もあるが、とにかく完訳しただけでも、物凄い労作であろうことには間違いない。
それにしても実に様々な文体(あるいは手法、はたまた変換方法)がある。
例えばスネイクマン・ショーの「こなさんみんばんは」や、テレビドラマ「トリック」で上田教授がよく口にしていた「ばんなそかな」、桑田佳祐が作る歌詞「You gotta(夕方)」や「I Could Never(愛苦ねば)」といった英語による日本語っぽい表現、さらに邪推すれば、業界用語と言われている「ギロッポン」「シースー」、そして「まいうー」すらも、この文体練習を元にしているのでは、なんて考えが浮かんでしまう。
要するに、上記のような「文体練習」も出てくるのであり、章によっては暗号の創り方にも使用できそう。
機械的な置き換えと思えるものもあるが、解説を読む限り「最終的にはクノーの言語感覚と遊びの精神によって制御されているのであって、けっして機械的な変換がなされているわけではない」とのこと。
面白い章もあれば、正直どこが面白いのかさっぱりわからない章もあるが、すべての章を読み終えて、結果として再認識できたのは、「日本語」という言葉の面白さ、柔軟性、特徴、欠点、そしてなんといっても奥深さであった。
蛇足ながら、僕はこの本をブックオフで税込で「1,750円」で購入した。
古本で集めた書籍の中では二番目に高い金額だった。
実際に定価でこの本を買おうとすると消費税8%で計算して「3,669円」になる(小数点以下切り捨て)。
変則的なサイズであり、ところどころ凝ったつくりにもなっているし、間違いなく労作なのだが、195頁の本としては、いささか高額なように思えるのだが……。
- 感想投稿日 : 2018年1月4日
- 読了日 : 2022年11月24日
- 本棚登録日 : 2017年12月28日
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