人外

著者 :
  • 講談社 (2019年3月7日発売)
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感想 : 16
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木の股から滲み出るようにして生まれ落ち、かつて人間だった頃の記憶を持つ「わたしたち」は、やがて四足の猫ともかわうそともつかないような形状の生物のカタチをとるようになる。「わたしたち」は、人情を解さない自分のことを「ひとでなし=人外(にんがい)」であると考える。人外は川を流れ、「かれ」と呼んでいるものを探す旅に出る。

一種のロードノベルのようでもあるし、なんとも説明しがたい不思議な物語。序盤は輪廻転生ものかとも思ったけれど、どうやらそういうわけでもなく…というのは、特定の個人の物語ではなく、あくまでこれは「わたしたち」の物語であるからで、強いていうなら、輪廻というよりは「生生流転」がテーマという感じだろうか。円や螺旋のモチーフが沢山出てくる。

もともと慣用句で「木の股から生まれる」というと、人情を解さない、木石のように心の動きのない人間を差して言ったりするものだが、本作の「人外」はまさにその言葉通り木の股から生まれる。

人外が生まれ落ちた世界では、ヒトはすでに滅びかけているようだ。どうやら疫病らしきもので亡くなった子供の死体が無残に投げ捨てられていたりする。人外は見張り小屋の老人や、眼帯の女性タクシー運転手、伝染病で死んだ人たちを積んだ列車で乗り合わせた偽哲学者、地下カジノでルーレットを回すクルピエ、チンパンジーと暮らす元図書館司書、迷宮のような廃墟の病院に隠れ住む病院長、廃遊園地のロボットゴンドラ漕ぎらと出会いながら、ついにある水族館へと辿り着く。

廃遊園地のゴンドラ漕ぎの場面が妙に好きだった。まるでギリシャ神話の冥界の川の渡し守カロンのようで。ある意味、人外はここで三途の川的なものを渡ってしまったのかもしれない。そうして辿りついた水族館で、人外は、自分以外の新しい人外が生れる場面を目撃することになる。それ以降の旅は、もはやとりとめもなく目的もない。

最後に人外は、川を遡り、自分が生まれたと思しき場所へと還ってゆく。物語もここで円を閉じ、あるいは閉じたように見せかけて実は螺旋を描いてまた繰り返していくのかもしれない。「かれ」とは結局なんだったのか、それは「死」のことだったのだろうか。寓話的でとても美しい物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >ま行
感想投稿日 : 2021年12月18日
読了日 : 2021年12月16日
本棚登録日 : 2021年12月11日

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