枯葉の中の青い炎

著者 :
  • 新潮社 (2005年1月26日発売)
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本棚登録 : 138
感想 : 14
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桜庭一樹の書評本に出てきたので気になっていた短編集。表題作が面白かった。最初のうちは野球のこととかよくわからないので「???」って感じだったのだけど、これ中島敦じゃないの!?って気づいたあたりから俄然興味が沸き。

登場人物は実在のプロ野球選手・相沢進(名前は完全に日本人だが、日本人の父親とミクロネシアのトール島の酋長の娘との間に生まれたハーフ)、同じくプロ野球投手のスタルヒン(北海道育ちのロシア人)、そして相沢進がトール島にいた少年時代に南洋庁の編修書記として赴任してきたのが中島敦。もちろん彼らの邂逅自体は著者の創造であり、スタルヒン300勝のために相沢進が酋長の祖父から教わった魔術を使うのも創作だけれど、もしかして本当にそうだったのかも、と考えてみるのは楽しい。中島敦の南洋ものは読んでいなかったのでこれを機会に読んでみたい。

「日付のある物語」も実在の人物と事件がモチーフ。昭和54年の三菱銀行人質事件で、銀行に立て籠もって行員と警察官合計4名を殺戮した犯人の梅川昭美の話。「ザーサイの甕」は中国に起源を遡る金魚とザーサイのマジックリアリズム的な話だけれど、途中ちらりと同じ著者のシリーズものの主人公・遊動亭円木が登場。なるほど、あの池の話ね。

「ちょっと歪んだわたしのブローチ」は、好きな女性ができだと妻に堂々宣言、相手の女子大生は卒業後郷里で婚約者と結婚することになっているので、その前に1ヶ月だけ同棲させてほしいと言い出す夫と妻のイビツな関係の話。最初は妻がこれを受け入れたことにビックリするけれど、もちろん本心では平静でいられるわけがなく…。同棲中も毎日決まった時間に夫から妻に電話する約束になっており、最初のうちはその電話のときは席を外していた浮気相手と、そのうちやってる最中に電話したりする夫の悪趣味、調子に乗ったことが妻の何かに火を付けてしまったのかもと思う。オチを怖いと思う反面、ざまあ、とも思ってしまう。

※収録
ちょっと歪んだわたしのブローチ/水いらず/日付のある物語/ザーサイの甕/野球王/枯葉の中の青い炎

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >た行
感想投稿日 : 2021年6月11日
読了日 : 2021年6月11日
本棚登録日 : 2021年6月10日

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