玉藻の前 (中公文庫 (お78-8))

著者 :
  • 中央公論新社 (2019年5月23日発売)
3.95
  • (5)
  • (10)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 118
感想 : 7
4

『怪獣』で岡本綺堂読物集は最終巻というのでしょんぼりしていたら、なんと今度は長編が同じく中公文庫から!しかも同じく山本タカト表紙絵で!そういうことならそうと言ってよ中公文庫さんたら~(笑顔)というわけで『玉藻の前』、大正6年に連載された、妖狐(九尾の狐)と「殺生石」にまつわる伝説をふまえた伝奇ロマンとなっております。

舞台は平安時代末期の京都。狐を射損ねたせいで左遷された病身の父と山科で暮らす14才の美少女・藻(みくず)は、父の病気快癒祈願のため毎晩清水の観音様にお詣りにいく。そんな彼女に付き添ってくれるのは近所に住む美少年で、両親を亡くし叔父夫婦に引き取られた15才の千枝松(ちえまつ、愛称ちえま)。仲睦まじい二人だったが、ある晩たまたま一人で出かけた藻の行方が知れなくなり、千枝松がようやく見つけたとき彼女は妖しい噂のある森の中で髑髏を枕に眠っていた。その日から藻は別人のようになり・・・。

ベースの部分は有名な伝説そのまま。『封神演義』に登場する美女・妲己にも憑りついていた九尾の狐が、天竺の華陽夫人に転生、さらにその後日本へやってきて玉藻の前に乗り移り、鳥羽上皇(綺堂はこの鳥羽上皇を時の関白・藤原忠通に変えている)に取り入り悪さをするが、退治されて石化する。しかしその石に近づくと動物も人間も死んでしまうことから「殺生石」と呼ばれた。

さて九尾の狐に憑りつかれてしまった藻は、関白・藤原忠通の寵愛を恣にして、忠通の弟である左大臣・頼長や信西入道らと対立させるよう仕向ける。さらにその妖艶な魅力で法性寺の高名な阿闍梨まで虜にして狂わせ、言い寄る男どもを手玉に取って互いに殺し合わせるなど悪女ぶりを発揮。

一方、千枝松はかの有名な陰陽師・安倍晴明の子孫である安倍泰親に弟子入りし、千枝太郎泰清という名前をもらって可愛がられていたが、玉藻の前となった藻と再会、彼女が妖かしであることを見破った師匠と、藻への変わらぬ恋心の板挟みに苦しむ。妖女・玉藻の前も、幼馴染で初恋の千枝松に対してだけは、まだ藻だった頃の恋心が残っているようで、懸命に彼を誘惑しようとしたり、衣笠という女性に嫉妬したりする。ついに玉藻の正体に気づいた安倍泰親により玉藻は退治され・・・。

千枝松と藻のラブストーリーの側面で見ると、かなり可哀想。しかしここまでいくといっそ痛快な玉藻の悪女っぷりに比べて、千枝松のほうは若干優柔不断だったりするので(別の女に目移りしたりするし)ちょっとイラっとする。千枝松の叔父の「烏帽子折」という職業が初耳で面白かった。おしゃれな形に烏帽子を折ってあげるお仕事なんですよ。烏帽子の折り方にそんなバリエーションがあったなんて!

狐つながりで短編「狐武者」も収録(別の短編集で既読)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >え~お
感想投稿日 : 2019年5月27日
読了日 : 2019年5月24日
本棚登録日 : 2019年5月24日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする