アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集 (光文社古典新訳文庫)

  • 光文社 (2020年1月8日発売)
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感想 : 10
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ルゴーネスはアンソロジー『ラテンアメリカ怪談集』で「火の雨」を読んだことがあるだけだったので、まとまった1冊で読めてとても嬉しい。帯の言葉を借りるならアルゼンチン文学上「ボルヘス、コルタサルと並ぶラプラタ幻想文学の巨匠」ということになるらしいが、この本の収録作を読んだ限りでは、ボルヘスやコルタサルの幻想や不条理よりも、冒険小説やSF寄りのような印象を受けた。科学的な「オメガ波」植物学の「ウィオラ・アケロンティア」あたりを筆頭に、全体的にどの作品にも何らかの蘊蓄が多いからかもしれない。

表題になっている2作は、ツタンカーメン王、ハトシェプスト女王の墳墓を暴いた呪いにまつわる連作。女王の生まれ変わりだという美しい女性の存在はさすがにフィクションだろうけど、発掘に関わった実在の人物(実際に不審な死を遂げている)も登場するので全部信じてしまいそうになる。「ヌラルカマル」や「黒い鏡」も遺跡からの発掘物などにまつわる考古学もの。

個人的にお気に入りだったのは「チョウが?」。仲の良かった従妹がパリへ留学してしまったあと蝶の採集に夢中になった少年が、ある日みたことのない珍しい蝶をみつけ標本にするが、同じ頃パリの従妹は・・・という不思議な話。ヒキガエルを殺すと復讐されるという「ヒキガエル」、インコの一種である小鳥の呼び名にまつわる「小さな魂」などは、南米らしい素朴な伝承が題材になっていて好みだった。

チョークで描いた円から出ると死ぬと信じている狂人の「円の発見」、自分は本当は死んでいるのだがそれを誰も信じてくれないがゆえに生きている男の「死んだ男」あたりはボルヘス的かもしれない。どちらも、それが事実だと本人なり第三者なりが認識した瞬間に本当に死んでしまう。子供のころに読んだどこかの国の民話で、バナナを食べると死ぬと信じている男に、こっそりばれないようにバナナ入りの料理を食べさせたところ、もちろん死なない、そこで実はバナナが入ってたんだよと種明かしした途端に男は死んでしまう、という話があったのを思い出した。

絵の中の美女が絵から出てくる「ルイサ・フラスカティ」、壁の前に座り続けた少女の肖像が壁に浮かび上がる「イパリア」、分身のような猿の影を持つ男の「不可解な現象」、骨格標本集めが趣味の男と骨のない女性「カバラの実践」などもホラー味があり、なおかつ作者の、そういう現象に対する思想のようなものが投影されていて面白い。

※収録
ヒキガエル/カバラの実践/イパリア/不可解な現象/チョウが?/デフィニティーボ/アラバスターの壷/女王の瞳/死んだ男/黒い鏡/供犠の宝石/円の発見/小さな魂/ウィオラ・アケロンティア/ルイサ・フラスカティ/オメガ波/死の概念/ヌラルカマル

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★南米・スペイン 他
感想投稿日 : 2020年1月13日
読了日 : 2020年1月11日
本棚登録日 : 2020年1月9日

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