『獏鸚』に続き海野十三2冊目の短編集。とりあえず創元推理文庫で読める分は順番に制覇したい。
「恐しき通夜」が面白かった。徹夜で仕事をするために集まった3人の男がそれぞれ眠気覚ましに何か話をすることになるけれど、実はその内容が微妙にリンクしあってて・・・。最終的に復讐譚になるのだけれど、古今東西、殺すだけでは飽き足りないほど憎い相手への復讐方法として「内緒で人肉を食べさせて後からそれが誰の肉だったか明かす」っていうの、ある意味定番化してきてる気もする反面やっぱりそれだけ復讐手段として有効なんでしょうねえ。こわいこわい。
「十八時の音楽浴」は一種のディストピアもの。特定の音楽(振動)を聞かせることで国家に忠誠を誓う有能な人物になるというのが、奇想天外なようでいて洗脳方法として案外実現可能そうにも思える。人造人間の美少女、野心家の女大臣など、脇役もなかなか個性的。そしてやっぱり、憎い相手は殺して食べさせちゃうわけですね・・・。
表題作「火葬国風景」はディストピアというよりはユートピア建設ものかな。しかし主人公が建国の趣旨に賛同してくれなかったのでとんでもない終わり方に(苦笑)
「生きている腸」はタイトルそのまま。生きている腸を飼育(実験)しはじめた大学生の末路。くねくね動いて餌をねだる腸って・・・グロテスクなのだけれど、ちょっとユーモラスというか可愛らしいような気がしないでもないような。
「三人の双生児」は収録作では一番の長編。ある女性が幼い頃の記憶の断片をたよりに自分の双子の妹と思われる人物を探そうと広告を出す。妹はいつも座敷牢に入れられており、いつのまにか母と共にいなくなったが主人公の記憶は曖昧、父親の日記には「三人の双生児」という謎めいた言葉が残されていた。広告をみてやってきた胡散臭い女探偵、その女探偵が「彼女こそあなたの双子の妹!」と連れてきたあからさまに偽者っぽい女、幼少時に見世物小屋に売られ「ひとで娘」として生きてきたという畸形の男、親戚でもないのに主人公と顔がそっくりな幼馴染の男など、さまざまな怪しい人物が次々と現れ・・・。正直タイトルだけで、ある程度のオチは想像がつくのだけれど、モチーフの猟奇性と真相に辿りつくまでの展開のスリリングさでぐいぐい読まされてしまった。ラストの解決の仕方がもうちょっと丁寧だともっと良かったのだけど。
※収録作品
電気風呂の怪死事件/階段/恐しき通夜/蠅/顔/不思議なる空間断層/火葬国風景/十八時の音楽浴/盲光線事件/生きている腸/三人の双生児/「三人の双生児」の故郷に帰る
- 感想投稿日 : 2017年12月14日
- 読了日 : 2017年12月13日
- 本棚登録日 : 2017年12月12日
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