指輪物語 (7) (評論社文庫)

  • 評論社 (1992年7月1日発売)
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感想 : 79
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再読中。一方、ボロミアに襲われた後、一行から分かれたフロドとサムは今エミン・ムイルの断崖絶壁で悪戦苦闘している。ロリアンでエルフにもらったロープを使いなんとか崖を降りるが、二人の跡をゴクリが執拗についてきていた。サムはゴクリをやっつけたほうが良いと考えているが、ついにゴクリを捕えたときフロドはガンダルフの言葉を思い出し、ゴクリを憐れんで助けてやる。ゴクリはフロドに忠誠を誓い、モルドールへの抜け道を案内することに。

ゴクリはゴクリになる前のスメアゴルの人格(ややまとも)と邪悪なゴクリの二重人格者のようになっており、始終ひとりごと(ゴクリとスメアゴルの言い争い)を続けながらも、二人を案内し、やがてモルドールの入口である黒門(モランノン)までやってくるが、門は閉ざされ大勢のオークらサウロンの手下が見張っておりここから入ることはできない。

二人はゴクリのすすめる迂回路をとり、かつては美しい場所だった名残りを留めるイシリアンの森へ。そこでサムはゴクリが捕まえた兔のシチューを作るが、その煙りに気づいた人間に見つかってしまう。彼らはオークの偵察に来たゴンドールのファラミアに率いられた一隊だった。フロドとサムは彼らの隠れ家に連行され、ファラミアに尋問されるが、彼らの話を聞いたファラミアは自分がボロミアの弟であることを明かす。

最終的にファラミアは、フロドの使命を知った上で協力を約束、彼らに食料や助言を与え、フロドとサムは再びゴクリの案内でモルドールを目指す。キリス・ウンゴルへの長い階段を抜けたあと、ゴクリは二人を洞穴へ連れ込む。そこは古代から生きる蜘蛛の化物シェロブの住処。ゴクリはシェロブに二人を始末させ「いとしいしと」を取り戻そうとしていた。しかしガラドリエルから貰った玻璃瓶のおかげで二人は一度は危地を脱する。だがその油断が災いし、フロドはシェロブに捕われ、サムには背後からゴクリが襲いかかる。

サムはゴクリを撃退、シェロブからもフロドを奪い返すが、シェロブの毒で仮死状態であるフロドが本当に死んでしまったと思い込み、フロドの代わりに指輪を持って使命を果たす決意をする。その矢先、オークたちが現れ、フロドの遺体(とサムが思っている)を持ち去る。指輪で姿を隠し慌てて後を追ったサムは、フロドが死んでいないことを知るが、オークたちに追いつくことができず…。


ひさかたぶりのフロドとサムのターン。古代の戦争の死者たちが眠る死者の沼地の場面は幻想的で好き。だけどあとはもうひたすら二人の旅が過酷で、読んでいるだけでくたくたになってしまう。兎のシチューの場面と、ファラミアと会ったときだけはちゃんとベッドと食事のある夜を過ごせることだけが救い。ファラミアが人格者すぎて大好きだ!ファラミアがボロミアの遺体を夢にみる場面も幻想的で良い。

あとは全編通して屈指の名場面と個人的に思うのは、キリス・ウンゴルへの階段でフロドとサムが交わす会話。サムが自分たちを冒険物語の登場人物になぞらえ、いつか子供たちがそのお話をせがむ未来を想像する。サムが「さておらたちはどんな種類の話の中に落ち込んじまったんでしょう?」と話す場面などある意味シュール。彼らは自分たちが冒険物語の登場人物であることを知っているのだ。

「天下の大事なんてものはどれもおらなんかには向かねえです。それでもやっぱり思いますだ。おらたちが歌やお話の中に入れてもらえることがあるだろうかってね。もちろん現に話の中にいるわけですだが、おらのいいたいのは、物語になって、何十年何百年後にも、炉端で話されたり、それとも赤や黒の字で書いたすごくでっかい本の中から読まれることがあるだろうかってこってすだ。そしたらみんながいうでしょうよ。『フロドと指輪の話を聞かせておくれ!』ってね。」

そしてそのあとの、サムがフロドを膝枕で眠らせる場面。サムの献身はもはや主従というより母性愛レベル。寄り添って眠る二人の姿をみつけたゴクリの描写も印象的だ。もしそのときのゴクリの姿を二人が見たら「目の前にいるのは年老いて疲れ果てたホビットと思ったでしょう」とトールキンは書く。醜悪なものとして毛嫌いされているゴクリが、かつてはそうでなかったことを垣間見せるとても鮮烈な瞬間を切り取っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ○トールキン
感想投稿日 : 2020年2月25日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年8月8日

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