かつてプロ棋士を目指すも、26歳までにプロデビューできず奨励会を退会、棋士になる夢を諦めデザイン会社に就職した小磯竜介。ふとしたことで何十年も前に戦死した大叔父が駒師であったことを知り、彼が残した幻の駒(玄火作・無月書)を探し出すために、アジアからニューヨークまで旅をすることになり…。
将棋の世界については『3月のライオン』で知れる程度の知識しかないまま読み始めたけれど、むしろそれで充分だった。主人公が将棋の世界で上り詰める話ではなく、若くして戦死した会ったこともない大叔父の人生を追跡する物語となっており、一種のロードノベルとして読める。
親戚の間でもタブーとなっていた大叔父の話、彼が犯した若き日の過ち。しかしそこから立ち直り、やがて駒師としての修業を積み、生き生きとした青春を送るようになるまで、現代を生きる主人公は、大叔父と同世代の彼を知る老人たちとの対話・交流を通して追体験していく。この老人たちが皆魅力的でとても良い。
やがて主人公は、手がかりを掴み、大叔父が戦死したフィリピンへむかう。そこからは、手がかりを掴むたびに「実は駒はすでに〇〇に…」の繰り返しで、どんどん遠くに連れていかれる。そしてついにその駒をみつけだしたとき、竜介のくだした決断は…。
人生で、何を残せるかについての物語だったように感じた。無名のまま戦地で亡くなり遺骨すら戻らなかった若者に、確かに青春や恋があり、彼が残した駒は現代を生きる人々に受け継がれていた。確かに彼は生きていた。その事実が、挫折を抱えた主人公のことも救う。松浦寿輝らしからぬ(?)意外なまでにストレートな感動作でした。
- 感想投稿日 : 2022年10月21日
- 読了日 : 2022年10月20日
- 本棚登録日 : 2022年8月13日
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