どの作品もだしぬけに不親切に始まり、読者を心細い傍観者にさせる。最初の2,3ページくらいゆきつもどりつでさっぱり進まないのだが、ある地点を超えるとがぜん、物語と自分の理解力のスピードがしっくりかみ合う。それがきっちり9回繰り返された。最初こそちょっともどかしかったけれど、本が終わりに近づくにつれて、あかの他人と親しくなる時の、あの好ましい疲労感と、別れがたい気持ちになった。
なんたって「笑い男」の颯爽たるダークヒーローぶりには、コマンチの少年同様にほれぼれさせられる。「エズメにーー愛と悲惨をこめて」では、からからに乾ききり、氷点下まで冷え切った悲惨が、どくんという脈動とともに愛に変わる奇跡を見せつけられる。そして美しくいたましい「テディ」。適度に翻訳ブンガクらしい噛み応えを残した文体が、10歳の少年の清潔な口語にぴったりだ。
これ以上持ち物を増やさないために、読んだ小説は端から手放そうと決めていたけど、これは別枠かな。
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カテゴリ:
ブンガク
- 感想投稿日 : 2009年9月14日
- 本棚登録日 : 2009年9月14日
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