この本は素晴らしい教科書だと思います、私の持論に、成功例は応用できないが失敗例は他のケースにも応用できる、があります。企業が急成長した例、個人が資産家になった例等は、本当に肝の部分は隠すか、気づかないでいるため、殆ど役に立つとは思っていませんが、失敗例・倒産例は、同様な考え方・方法をすると失敗する確率がかなり高いと思います。
この本には、大きく戦略上・マネジメント上の問題に分けて、合計で25の実際に起きた例を、社名を取り上げて紹介しています。中小企業診断士である私にとっても大いに参考となる情報が詰まっていると思います。この様な本の続編が出ることを期待しています。
以下は気になったポイントです。
・千葉そごう以降の20年間は、水島社長が出店場所とタイミングさえ決めれば良かった、新人として入社した社員が40歳を過ぎるタイミングという長期間、そういった状況に慣らされていた社員たちは、現状を疑い、建設的に議論する力を培う機会がなかった(p26)
・そごう倒産に学ぶポイント、1)自分たちのビジネスはどのような「前提」で成り立っているか考える、2)その前提はズレてきていないか議論する、3)強固なビジネスモデルを持ち持続的に成長している事業ほど危険という認識を持つ(p28)
・既存の技術体系を持つ大企業において、革新的技術のオーソライズが取れない理由の一つに「存在しない市場は分析できない」、分析できないものは意思決定できないという考え方にとらわれると、未知のものに対応できない、変化に弱い人材となる(p37、38)
・ポラロイド倒産に学ぶポイント、1)既存事業と同じ尺度で新規事業を図る危険性を理解する、2)市場にない新しいビジネスは分析できない、3)新しいビジネスこそ、実践を通じて学習していく姿勢を大切にする(p39)
・GMには1950年前後に仕掛けられた「組合との協定」という時限爆弾があった、UAWと賃金、年金、終生の医療費負担の提供など、極めて労働者に優位な協定(デトロイト協定)を締結した、この前提にはコストが問題になれば価格を上げればよいという目算があった(p56)
・コダックはフィルムの浸透を図るために、価格面においては「レーザーブレード戦略」を採用した、髭剃り本体を安くして、替え刃で儲けるビジネスのようい、カメラを低価格にして、フィルム販売で儲けるようにした(p74)
・コダックには、銀塩周りの写真品質にこだわる技術者、現像に関わる販売店など、従来のコダックのビジネスモデルによって潤う人たちはたくさん存在した、これが技術的転換点において問題となる(p78)
・アマゾンは仕入先を強化するために、5000万ドルに近い違約金を支払い、トイザらスと手(契約:2000年に10年間の契約)を切った(p86)
・ルールの変更に気づくためには、使い慣れたレンズをいったん手放して、新しいレンズを通して世の中を見つめてみる必要がある、3年後の世界から、異業種から、過去事例から等(p89)
・ウェスティングハウスは、二コラ・テスラを雇い、交流送電システムを開発し、エジソン率いるゼネラルエレクトリックが提案する直流システムと対決し勝利、多極電動交流機の開発により、現代アメリカの電力システムの基礎を作った(p95)
・鈴木商店に深刻な打撃を与えたのは、1922年ワシントン海軍軍縮条約による軍艦建造の中止命令、傘下である、神戸製鋼所、播磨造船所、鳥羽造船所等の残留船腹が不良在庫化した(p107)
・鈴木商店がダメになり、三井・三菱・住友がそうならなかったのは、事業構成(ポートフォリオ)および資金調達(ファイナンス)にあった、中核に鉱山業を持ち安定的な収益がある、グループ内に銀行がある、これは戦争終了や関東大震災よりも大きな問題であった(p108,109)
・1803年当時フランス領だったルイジアナをアメリカが買収する際の両国の仲介、ファイナンスを担当したのが、ベアリングス銀行であった(p115)
・1985年、5200億円という巨額な負債を抱えて会社更生法を申請した、三光汽船であttが、日本航空の墜落事故の翌日だったので世間的な注目を受けなかった(p150)
・1989年に大蔵省は、営業特金の解約(具体的な運用方法を決めず、証券会社に運用をまかせるもの)と、事後の損失補填の禁止する通達を出した(p172)
・エアバックのタカタは、わずかな水分も入れない密閉した容器設計と、製造工程で徹底した湿度管理を実現して、欠点(温度により体積変化、吸湿しやすく安定性に欠ける硝酸アンモニウム)を抑え込むことに成功した、他社は「硝酸グアニジン」という容量がかさばるコストの高い化合物を採用した(p266)
・戦略的とは、「考える論点の多さ」x「考える時間軸の長さ」これが十分でないと「短絡的」=極めてわかりやすい短期的な数字の引力に考えを奪われる(p285)
2020年4月11日作成
- 感想投稿日 : 2020年4月11日
- 読了日 : 2020年4月11日
- 本棚登録日 : 2020年1月24日
みんなの感想をみる