江戸・千駄木町に流れる心淋し川。この淀んだ川のほとりに住む人々もまた、淀んだ自分の人生を必死に生きている。時代小説だけど、読みやすかった。
各話の登場人物がそれぞれに苦しくてつらい生活をしているんだけど、一番響いた?ズシッときたのは「冬虫夏草」かな。母と息子・嫁と姑の依存や確執の話。(年齢を重ねたからか、昔はあまり好きではなかったこういう話が最近刺さる・・・)
家業をおろそかにした跡取り息子とその嫁。息子が遊び歩いた末に大怪我をして、それを機に嫁と離縁させる姑。息子を献身的に支えていく母の姿・・・ドロドロ!笑
「浮かんだのは、桜の木にたかる毛虫だった。吉という桜の木が、この娘に食い荒らされる――。」
「富士乃助は成虫となる生身であり、吉はそれを包む薄っぺらな殻に過ぎないのだと。役目を終えれば後は崩れるしかなかったが、息子は殻を出ることなく吉の中に留まってくれた。ちょうど蛹のまま羽化が叶わなかった蛾のように――。」
姑の暮らしを壊す嫁の姿を桜にたかる毛虫に、また、息子に執着して飼い殺さんとするばかりの母の姿を、蛾の幼虫に寄生する茸である冬虫夏草に重ねているのがかなりグロテスク。
家族をつくっていくって難しいなと思った・・・
「誰の心にも淀みはある。事々を流しちまった方がよほど楽なのに、こんなふうに物寂しく溜め込んじまう。でも、それが、人ってもんでね」
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年12月27日
- 読了日 : 2023年12月20日
- 本棚登録日 : 2023年12月18日
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