銃 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社 (2012年7月5日発売)
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感想 : 343
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「銃」
 主人公は一見充実した生活を送る、ごく平均的であり、それ以上でもそれ以下でもない大学生。自己の奥底に潜んでいた破滅へと向かうのを望む願望が銃を拾うことによって肥大化する。自らの生い立ちの特殊性から、自分は周りの人間とは隔絶された存在であると認識している。銃という究極の実用的美に魅せられ、銃に傅き、銃を自己の内面の表層部分に融合させる。どこまでも平凡な人生(物語)を大きく捻じ曲げるきっかけはどこまでも平凡な事象であり、それに触れるどこまでも平凡な狂気との化学反応なのだ。意識と無意識に境界は無く、そこには下した判断にかけた時間の差しかない。
 この物語の主人公は『罪と罰』のラスコーリニコフだ。ラズミーヒン(ケイスケ)という友を持ち、判事ポルフィーリー(警察)に追い詰められ、ソーニャ(ヨシカワユウコ)に罪の告白を試みる。この主人公はラスコーリニコフのように罪を悔いることはなく、ラスコーリニコフのもう一つのエンディングの可能性、スヴィドリガイロフと同様の運命をたどった。ラスコーリニコフは罪を犯したあとに苦悩するのに対して、この主人公(西川)は罪を犯す前の段階で、銃とともに起きるその後の可能性に苦悩し、あるいは思考停止した。この作品『銃』は『罪と罰』の前日譚を含む、あり得たもう一つの物語の可能性なのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年10月28日
読了日 : 2019年10月29日
本棚登録日 : 2019年10月28日

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