(上下巻共通の感想です)
1878年。22歳となったサリーは、ケンブリッジを卒業後、財政コンサルタントとして事務所を構えている。また友人のフレデリック・ガーランドの写真店の共同経営者でもあり、写真店も順調に売上を伸ばしていた。ジムは劇場の裏方の仕事をしながら小説を書いていた。
ある日、サリーの事務所に老婦人が訪ねてきた。サリーのアドバイスで海運会社に投資していたが、船が突然会場から姿を消し、保険金も支払われなかったことから海運会社は倒産寸前で、老婦人は財産を失った。だが、この事故が釈然としないため、老婦人はサリーに調査を依頼する。船の荷主は大富豪のベルマン氏。サリーは周辺を調査するうち、ベルマン氏が不審な事業に携わっていることを突き止めるが、氏は強硬な手段で妨害工作を仕掛けてくる。
同じ頃、ジムは、劇場で命を狙われていると怯える奇術師マッキンノンを助ける。霊力を持つマッキンノンは、殺人事件を霊視したことから追われているという。ジムはフレデリックの助けを借りて調査を開始するが、この事件にもどうやらベルマン氏がからんでいるらしい。
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前作「マハラジャのルビー」から6年。少女だったサリーが、若い魅力的な女性に成長した姿で登場。まだ女性の社会進出が困難な時代(女性は大学を卒業しても学位がもらえない!)に、財政コンサルタント(今でいうところのフィナンシャルアドバイザーといったところか)として事務所を構えているのだからキャリアウーマンの先駆けだ。だが、それで私生活が順調かというと、恋人のフレデリックとどうもしっくりいかない。お互い愛し合っているのだが、当時は結婚すると女性は自分の財産を持てず、所有していた財産は夫のものとなる。もちろんフレデリックにサリーの財産を自分のものにしようという気などさらさらないのだが、社会的に対等な立場でなくなることからサリーは結婚にイエスといえずにいる。
というところが前作からの空白の6年についてで、サリーの追う海運会社の事件もフレデリックとジムの追う奇怪な奇術師の事件も黒幕は謎の大富豪ベルマン氏で、彼が起こした会社のよからぬ企みが明らかになるにつれ、サリーたちの身辺に危険が忍び寄ってくる。
舞台はビクトリア朝のロンドン。蒸気エンジンや鉄工所など産業革命の時代を示すものと、怪しげな降霊術や奇術、幻術など当時の流行が登場。登場人物が大人に成長しているため、会話や人物の描き方がより生き生きしてみえる。
「ライラの冒険」でもそうだったけれど、少々粗っぽいがスピーディな展開で物語は進行。ベルマン氏の差し金により、サリーは大きな痛手を受けることになるのだが、それが「えええ!」と言いたくなる衝撃で、この後作品が続くとは思いがたいほど。
ちょっと脇役陣が都合のいい存在というか行動をとるのが気になるかな。あと、前作で魅力的な登場人物だった、フレデリックの妹ローザが登場しなかったのが少々残念。いま思うとラストシーンには出てきてもおかしくなかったのでは?というかなぜいないのか。
この作品は「YA(ヤングアダルト)扱いで、中高生を対象とした作品なのだが、訳も少し変えて一般向けの作品にしてしまってもよかったのでは、と思ったり。
- 感想投稿日 : 2012年9月13日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2012年9月6日
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