光と重力 ニュートンとアインシュタインが考えたこと 一般相対性理論とは何か (ブルーバックス)

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  • 講談社 (2015年8月21日発売)
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小山慶太
1948年生まれ。早稲田大学理工学部卒業。理学博士。早稲田大学社会科学総合学術院教授(科学史)

そうした性癖、姿勢を顕著に表している事例のひとつが、ニュートンの業績の中で異端に位置づけられる錬金術の研究である。錬金術というのは、そう、卑金属を化学的な処理によって金に換えるという、あの秘術である。近代物理学の創設者がよりにもよって、錬金術のマニアであった事実は、いまや〝公然の秘密〟となっているが、怪しげな雰囲気に包まれた営みの中にも、孤高の学究の姿が浮かんでくるのです。

よく知られるとおり、量子力学が内包する確率的(統計的)解釈に対し、アインシュタインは強い違和感を拭いきれなかったからである。確率的解釈も元はといえば、粒子と波の二重性から派生した結果であることを考えると、皮肉な話である。

では、そもそも相対性理論はなぜ、敢えてノーベル賞からはずされたのであろうか。これ自体、大きな謎といえば謎である。

したがって、無理をして相対性理論を選ばなくても、光電効果の理論を前面に出すだけで、アインシュタインに対するノーベル賞授賞の理由は十分であると判断されたのであろう。もう少しいえば、ノーベル賞委員会は無難な選択をしたのである。アインシュタインがノーベル賞講演において、光電効果の理論ではなく、相対性理論だけを取り上げたのは、ノーベル賞委員会のこうした見解に対する自分なりの異議の表明だったのかもしれない。

 その後、天文学分野の研究は宇宙論を含め、物理学とのかかわりをますます深め、現在では物理学のひとつの領域に組み込まれたような様相を呈するようになった。

このとき、人々は星占いでも水晶占いでもタロット占いでもなく、ニュートン力学にこそ、未来に起きる出来事を正確に予見できる能力があることを知ったのである。このインパクトは、いまでは想像がつかないほど強烈なものだったと思う。  なにしろ、計算を実施しさえすれば──もちろん、一定の制約はあるものの──、任意の時刻における天体(一般には物体)の運動状態(どこにいて、どのような速度で動いているのか)を力学は教えてくれるというわけであるから、考えてみれば、これはとてつもなく凄い話である。それまでの自然観を揺るがすほどの驚きをもたらしたと表現しても、過言ではなかった。  ここにまたひとつ、ニュートン力学は金字塔を打ち立てたのです。

そういえば、サン゠テグジュペリの『星の王子さま』の故郷は、一軒の家よりほんの少し大きいくらいの小さな小さな星であった(図4‐7)。B612という番号がつけられた小惑星で、そこにも山が描かれている。無人ではあるものの、人間がつくった着陸機が降り立った小さな星の世界を想像すると、なぜか、『星の王子さま』のこの場面が思います。

この有名なるニュートンは、一七二七年の三月に死んだ。彼は生前、同国人から尊敬されてきたが、葬られたときも、まるで臣下に恩恵を施した王のようであった。  また、フランス科学アカデミーのフォントネルもニュートンの偉大さを称える 頌辞 を読んでいる。  ところが、ニュートン亡き後、力学研究の中心はイギリスではなく、ヨーロッパの大陸に移っていく(地球の測量を行ったモーペルテュイやクレローも、それを担った一人です。

このように、特定の座標表示に依存せず、一般化されたラグランジュ方程式では、幾何学的な作図、考察がもはや必要なくなってしまった。代わりに、ひたすら微分方程式を解くという数学的な操作を実行すればよいのである。つまり、解析学の知識さえあれば、別にニュートンのような大天才でなくとも、機械的に解を求めることができるわけであり、そのぶん、力学の汎用性が増したのです。

暫定的、未知とわざわざ断っているところに、宇宙をなんとしても静的で安定した状態に保ちたいというアインシュタインの強い信念が感じられる。  ところが、やがて、アインシュタインの信念は崩れざるを得なくなる。一九二九年、アメリカのハッブルが宇宙の膨張を示唆する観測結果を発表したからである。  ハッブルは遠方の銀河から届く光の赤方偏移(ドップラー効果により、光のスペクトルが長波長、つまり赤い方へとシフトする現象。これによって光源の運動状態を知ることができる)を測定したところ、地球からの距離に比例して、銀河の後退速度(地球から遠ざかる速度)が増加していることに気がついた(これをハッブルの法則という)。といっても、地球が宇宙の中心に位置しているという意味では、もちろんない。そうではなく、どこで眺めても、銀河は互いに遠ざかりつつあるのである。つまり、宇宙空間そのものが膨張しているというわけである。  宇宙はアインシュタインが望んだように静的ではなく、動的な存在であった。  一九三一年、アインシュタインはウィルソン山天文台(カリフォルニア州)を訪れた折、ハッブルから宇宙膨張の証拠となる銀河のスペクトル写真を見せてもらっている。アインシュタインはそこに、強いドップラー効果による赤方偏移を認めたのである。  物理学は実証を重んじる学問である。動かぬ事実を目の当たりにしては、さしもの天才も宇宙定数を放棄せざるを得なかった。かくして、一般相対性理論を宇宙全体に適用するという壮大な試みの中で生まれた宇宙定数は短命に終わった……かに見えます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年9月25日
読了日 : 2023年9月22日
本棚登録日 : 2023年9月22日

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