スウィングしなけりゃ意味がない (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2019年5月24日発売)
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本棚登録 : 355
感想 : 26
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イカした小説だった。ナチスが幅を利かしていた時代のハンブルクを舞台に、ジャズにかぶれた連中(スウィング・ボーイズ)がしたたかにしなやかに生き抜いていく物語。
レジスタンスのように真っ向から抗うのも尊いけど、この小説のスウィング・ボーイズのように軟派を装ってカッコつけ、相手にしないようでいて器用に裏をかいているようなのって素敵だ。ナチスの時代というとすべてが灰色あるいは真っ黒に思われかねないけど、笑うときもあれば悦びのときもありながら人は生きていたはず。そんな一面を表現してくれているような気がするよ。
その極めつけのような聡い青年が主人公のエディだと思う(もう一人あげるとしたらマックスだね)。物事や世の真理、人の心理が直感的にわかってる世渡り上手(それでいながら嫌味がない)、楽しむことにも貪欲でありながらしっかり成果もあげられるタイプ。
エディやマックスの言動を読みながら、最近、男性作家の(日本人の)少年や青年を主人公にした小説2作品で、主人公の彼らが一歩引いたところから俯瞰的に物事を見ているような、いってみればずるいスタンスなのに、周囲の人から買われている様子なのってちょっとおかしいと思ったことを思い出した。それは、カッコいいとはいえない男性作家が自分と似たタイプを主人公に願望混ぜてそういうこういうキャラクターになっているんじゃないかなと思っているんだけど、この小説のエディはマックスは文句なし、ちゃんとうなずけるカッコよさがある。それって、女性作家の手になるからだろうか。
作家の力といえば……と話題を強引にもってきたけど、こんな小説を日本人が書いちゃってるのもすごい!
欧米(語)の小説の文調と日本語の小説の文調ってやっぱり違っていて、それって翻訳して日本語になった小説を読んだところで、外国ものは読みにくい、その小説の世界に入りにくいなと思ってるんだけど、この小説はそういう思いになることがない。馴れしみ込んでる日本語で一から書かれているだけあって、すぐに目の前に情景が浮かんでくる。そして題材自体の面白さもあってどんどん読んでいける。
これ、映画化(洋画)するといいのに。小難しいミニシアター系の映画とかじゃなくて、ハリウッドのエンタメ感ありありでつくったほうがいいなあ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年7月26日
読了日 : 2019年7月25日
本棚登録日 : 2019年7月25日

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