人新世の「資本論」 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社 (2020年9月17日発売)
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感想 : 641
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こちらを読むための準備運動として100分de名著「資本論」を読んだのだが、非常にわかりやすくまとめられており、資本論の概要がつかめた
本書ではさらに資本主義の問題点の多さと、奥深さに、薄々気づいていたことを突き付けられたような衝撃を感じることとなった

さてタイトルにもある「人新生(ひとしんせい)」とは何ぞや?
人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆い尽くした年代という意味
なんだか恐ろしい符号を付けられた感じである

改めて資本主義がどういう犠牲の上に成り立っており、その恩恵を受けているのが実は一部の人たちということが多くの調査とデータにより実に詳細に分析されている
先進国を豊かにする大量生産・大量消費型社会
この裏ではグローバル・サウスの地域や社会集団から収奪し、代償を押し付ける構造が成り立っているのだ
グローバル・サウスで繰り返される人災
あまり報道されず、どこか遠くの話し…と犠牲が不可視化されうやむやにされる

少し例を上げたい
インドネシアやマレーシアではパーム油の原料となるアブラヤシの栽培面積の増加による森林破壊が起きている
熱帯雨林の生態系を狂わせ、土壌侵食が起き、肥料・農薬が河川に流出し、川魚が減少
この地に暮らす人々のたんぱく質が激減し、お金が必要になる
やむを得ず金銭目当てに絶滅危惧種の野生動物の違法取引に手を染める
そう、労働搾取だけでなく、資源の収奪と環境負荷の押し付けをしているのだ
気づいていただろうか?
知らなかっただろうか?
誰もが薄々わかっていたのではないだろうか…

もう一つ例を上げたい
テスラなどの電気自動車だ
こちらはリチウムイオン電池が不可欠となる
チリが最大の産出国であるが、塩湖の地下からリチウムを含んだ鹹水かんすいをくみあげ、その水を蒸発させることでリチウムが採取される
これは地域の生態系に大きな影響を与える
つまり地元住民の生活に皺寄せが行く
いわゆるグリーン技術は生産過程まで目を向けるとそれほどグリーンではない

自分たちの幸せは犠牲の上に成り立っているのに、知らないから知りたくないに変わってしまい、エコバッグを買ってSDGsを掲げてアリバイ作りをして見ないふりをする
ドキッとする人がたくさんいるのではないだろうか

また、個人的に違和感を感じる身近なこと…
例えばアマ〇ン
非常に便利で何度もお世話になっている
当初、そこまで急いでないのにこんなに早く届くとは!
と感激したものだが、それが当たり前になってくると、(不思議なもので)納期に時間がかかると
あれ?遅いじゃないか…となるのが人間の心理

便利な返品システムと各地に増え続けるアマ〇ンの倉庫
システマチックに価格が変動し、そのせいでどれほどの物流や人が動いているか…
(うちの会社もかなり振り回されております…)
これって尋常じゃない…はずなのに
ここまでの付加価値が本当に必要ですか?
たぶん必要ではない
このシステムで何が犠牲になっているか、きちんと知る必要がある
が、この仕組みに慣れるということが恐ろしいことなのだと自覚する必要がある
資本主義はどこかで利益や利便性が発揮されると必ず皺寄せがどこかにいくシステムなのだと改めて感じた


さて斎藤氏はどうすればこれらの問題が解決すると考えるか…

○「脱成長」
興味深い比較がある
経済成長と幸福度に相関関係は存在するのか…というアメリカとヨーロッパの比較だ
ヨーロッパ諸国はアメリカに比べGDPが低いが、福祉施設全般の水準は高く、医療や高等教育が無償で提供される国がいくつかある
一方アメリカは無保険のせいで治療が受けられない人々がいる
要は生産や分配をどのように組織するかで社会の繁栄は変わる
一部が独占すれば多くは不幸になる
公正な資源分配をすることで解決すると強く言う

○コモン
コモンとは、社会的に人々に共有され、管理されるべき富のこと
水、電力、住居、医療、教育などを自分たちで民主主義的に管理することを目指すのが資本主義でも社会主義でもない第三の道だという
ここではバルセロナの具体例が紹介されており、少しずつ世界に広がり見せている模様


つまり最終目指すところは
「脱成長コミュニズム」という社会であり、相互扶助のネットワークを発展させていくこととする
(我々の無関心さが1%の富裕層・エリート層が好き勝手をさせ社会の仕組みや利害を作り上げてしまったのだ ああ、無関心の罪深さよ…)

本書はなるほどと思う部分と、まだ心のどこかでそんな社会は可能なのか、現実的にどうなのか…と疑問視する部分がある
そして資本主義の恩恵を捨てられるのか…とも考えさせられる
同時に果たして地球は誰のための者なのだろうか…
いや、誰のものでもないはずだ
資本のある人間が何かを独占していいなんて確かにおかしい
住む土地、生きるための酸素、生活必需品の水…
人間も動物もその他生物たちに平等なので共存すべきではないか
もしかして…資本主義が進むと酸素や太陽の光や温度の恩恵さえ、お金を払わないと受けられなくなるのではないだろうか
さらに地球の環境が激化し、これらが争奪戦になるとしたら…
お金を持っている人間だけしか生き残ることができない
ディストピアの恐ろしい世界である
でももしかしたらそんな遠くない将来、それに近いことが起きるのかも…

兎にも角にも深く考えさせられる書であったが、決して難しいことは書いていない
具体例も多く、わかりやすい
本書の売れ行きから考えても資本主義への疑問や不満を持つ人たちが増えているのは間違いないだろう

そう、無意識ほど罪深いことはないのだ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年5月16日
読了日 : 2022年5月12日
本棚登録日 : 2022年5月12日

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コメント 2件

アテナイエさんのコメント
2022/05/18

ハイジさん、こんにちは!

たいへん素晴らしいレビューですね♪ 感激しながら拝読して、また自分のなかで復習しました!

>自分たちの幸せは犠牲の上に成り立っているのに、知らないから知りたくないに変わってしまい、エコバッグを買ってSDGsを掲げてアリバイ作りをして見ないふりをする

うぅ~ほんとにそうなんですよね。環境にしても、原発や米軍基地や世界中で発生している貧困地帯の紛争・戦争にしても、都合の悪い真実には目をつぶりたくなるのが人間心理ですよね。
べつに作者は読者を責めているわけでもないのですが、下手すると、なかば逆切れ状態になったり、絵空事だとうやむやにしたり……私も友人と話をしていると、こんな感じになってしまうことがあります(笑)。

とにかく現状と問題点を知ることは大事だな~と思いました。ハイジさんのレビューをみて、かなり忘れていたこともあるので、また近く読んでみようと思いました。
ありがとうございま~す(^^♪

ハイジさんのコメント
2022/05/18

アテナイエさん こんにちは(^ ^)
コメントありがとうございます!

本当に深く深く考えさせられました。
読むこと自体は難しい本ではないですが、アウトプットするには難しいですね…

そうなのです
ヘタをすると綺麗事や偽善的になりそうですし、じゃあ何ができるのだろうと…
読んだ後も後を引いて…
マスメディアの環境保護とかSDGsにいちいち疑問を持つようになりました(^^;;

でもまずはそういうことで良いのかなぁ
と…
一歩ずつ…ですね!

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