芥川賞受賞会見で話題となった父子の性と暴力を描く「共喰い」。小学生が曽祖父の死に触れる「第三地層の魚」も収録。
「共喰い」は昭和の終わりの父子の性暴力の連鎖の話で全体的にグロテスクだ。だが、そのグロテスクの表現が何ともいい。義手のスポンと外れる描写が好き。どこまでもまとわりついて動けなくなる様な何かとそれへの抗いがテーマの様に感じた。
一方「第三地層の魚」は舞台が現代で主人公も小学生で「共喰い」よりポップだ。ネットオークションで勲章を買おうかというエピソードはまさに今だ。祖父と父に自殺され、残された曽祖父と祖母と母と自分という環境で自分というものを考え始める子ども。だが、性も暴力もなく小学生と家族の会話を中心とした「第三地層の魚」は「共食い」に比べさわやかだ。
どちらも同じ様なテーマを持ちながら対照的な二作品のコンビネーションがすばらしい。
田中慎弥の小説は自分を形づくってきたものへのぬぐえなさとそこからの自立がテーマなのだと感じた。「共喰い」とあの会見で非常にクセの強い印象を受けるが、このテーマって言葉にすれば”青春”なのではないだろうか。
田中慎弥が好きになった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
文学(小説)
- 感想投稿日 : 2023年9月24日
- 読了日 : 2023年9月24日
- 本棚登録日 : 2023年9月24日
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