きっかけは、油断による1つの敗北だった。それを機に加速していく仏陀への嫉妬と妄執のすさまじさ。しかしこの提婆達多という男、ろくでもない人間だというのに不思議と共感を抱いてしまう。毒を吐くことで己や他者を虐げる行為は、理想の追求者を演じる自分に酔っているだけのことであり、もちろんそれでは救われない。
しかし悟りの境地にたどり着いた仏陀が素晴らしいかと言えば、彼の大きさは伝わってくるものの、妻だった女や提婆達多を「冷やかに」見る目は恐ろしく、達観とはなんと無情に感じるものかと、これまた読んでいて心穏やかでいられない。つまるところ、人間臭さが愛しくてならない自分は仏陀への反抗心がむらむらと湧き上がってくるばかりだった。まあ、これがすでに憧憬と崇敬を秘めた嫉妬というものなのかもしれない(笑)。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
岩波文庫
- 感想投稿日 : 2012年7月4日
- 読了日 : 2012年7月4日
- 本棚登録日 : 2012年6月8日
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