ロートレック荘事件 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1995年1月30日発売)
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感想 : 533
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鬼才・筒井康隆さんが推理小説の世界に真剣に真っ向勝負を挑んだ騙しのテクニックが冴え渡る叙述トリック・ミステリの不朽の名作。本書のタイトルのロートレックは実は障害者を象徴する意味のみなのですが、途中に代表的な絵画作品が数多く掲載されていてお得な気分が味わえますね。まずブラックな笑いがお得意な著者には珍しく「侏儒褒章」なんて戯言以外は至って生真面目その物の筆致に驚きましたね。冒頭から幽かに違和感を覚えながら著者が読者を誤認させ誘導する手管に完全にしてやられましたね。ラストに漂う悲劇的な哀感にも心が痛みました。

実に巧いなあと思います。これが本当の「知らぬは読者ばかりなり」と言った所でしょうね。まあ相当の混乱状態の中で起きた出来事とは言え、だからこそ隠された事実を知っていながら渡辺警部は3人もの被害者の命を救えなかった事が不甲斐なく情けない無為無策の重大な責任問題だと思えますよね。それから49頁のロートレック荘二階平面図を見直してみて特徴的な表記の違いに嫌でも気づきましたね。本書もまたトリックの性格上から映像化が困難な作品でしょうね。後で振り返るとモヤモヤした最大の違和感は男なら誰もが嫉妬するモテ男の矛盾でした。

また例によって唐突ですみませんが、さだまさしさんの曲でロートレックが出て来る唯一の歌「たずねびと」の一番の歌詞を引用します。いつもの様にこの店のカウベル鳴らして ドアを開いて狭いカウンターとまり木にすがれば黙っていても出てくるアメリカンそれからほの暗い柱の陰にロートレックのおなじみのポスター常連達の吐息と煙草の海喘ぐ様に泳ぐレコード壁紙の落書きは 昔の青春達書いた人も書かれた人も昔の恋人達色褪せてうずくまる待つ人のないたずねびと ノスタルジックな雰囲気が渋い名曲ですので気になった方は何時か聴いてみて下さいね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年3月23日
読了日 : 2019年3月23日
本棚登録日 : 2019年3月23日

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