翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1996年7月13日発売)
3.62
  • (201)
  • (272)
  • (382)
  • (67)
  • (13)
本棚登録 : 2332
感想 : 288
4

うおー…麻耶さんのデビュー作こんなんだったんか。
すごい作品読んじゃった…。
衝撃度だけなら☆5つ。

名家今鏡家の城のような館で、今鏡家の人々が次々に殺されていく。みな首を落とされて。
成り行きで発見現場に赴いた探偵木更津が、事件解決に挑む。
最初の導入からウマイ。
ミステリアスな今鏡家の空気に読者を虜にする持っていき方がウマイ。

探偵モノで館モノで密室モノで連続殺人モノで多重解決モノでどんでん返しモノっていう、めっちゃ盛りだくさんな内容。
もはや、語り役「私」こと香月の本業が何だったか思い出せないほどの情報量の多さ。
探偵木更津がなかなか好ましいし、二人の関係性も好ましい。

登場人物たちの会話がいちいち高度な謎かけみたいで、行間に神話やら聖書やら歴史やら不朽の推理小説やらあらゆる古典が忍ばせてあって、自分はほとんど行間を読み取れなかったけど、すごく刺激を受ける。
渾身の推理が大外れでショックを受けた探偵(木更津)が山に籠っちゃって、代わりに新たな探偵(メルカトル鮎)がやってきて推理を披露したと思ったら殺されちゃって(!)、山に籠った探偵が下山して再登場して……って一連の展開は非常に斬新だった。
そんで、ちらっと出てきてさっさと殺されるメルカトル鮎が副題になってるのが、すごく笑える。
一体どこまで本気なのか。

最後のどんでん返し、ワトソン役の「私」(香月)のみが真相にたどり着いたのも、これまでの探偵モノのパターンから外れてて、イイ。
あんなに頭脳派っぽかった木更津と香月の立場が一瞬にして入れ替わる鮮やかな手法は、もうアッパレとしか言いようがない。何も知らずに論理的な説明で周囲をあっと言わせる木更津の傀儡っぷりが、ちょっと哀れに思えてくる。
(でも、他のホームズ×ワトソン系コンビと違って、木更津は香月を馬鹿にせず、敬意を払ってる感じがする。木更津は潜在的に香月の頭の良さが分かってるんじゃないか)

よくよく考えると、ロシア人(絹代)はどうしたって「彫りの深い日本人」には見えないよね、とか、20年経ってるとはいえ実の母親の顔分からないかね、とか、双子かい!、とか突っ込みどころ満載なんだけど、直前に「生きたままスパッと斬られた首がたまたま他人の胴体と繋がって数分生きてた」なんて、そんなバカな的推理を聞かされたあとだと、かなりエキセントリックなことでも説得されてしまう。

超ベタな館モノ風に始まって、どんどん路線を外れて思いもよらない展開になって行くのが好みだった。
正直、館モノも密室モノも名家ネタも実は双子でしたオチも好きじゃないんだけど、衝撃が全てを越えた作品でした。

麻耶雄嵩の踏み絵だね。
私は麻耶さん大丈夫そうだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 麻耶雄嵩
感想投稿日 : 2018年5月7日
読了日 : 2018年5月7日
本棚登録日 : 2018年5月7日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする